ジャイアントキリング連発!170cmの西岡良仁が「ダビデ」になった日

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

「僕にとっては普通のことなので、それほど気にはならない。むしろ、自分より小さい選手と対戦することになったら、どうプレーしたらいいのかわからなくなるかも......?」

 そう言うと、彼は八重歯をこぼし、少し照れたような笑みを浮かべた。

強豪を次々と倒す小柄な西岡良仁のプレーは観客を魅了した強豪を次々と倒す小柄な西岡良仁のプレーは観客を魅了した アメリカ人記者から投げかけられた「自分より大きな相手と戦うことの難しさは?」という問いへの答え。身長170cmの西岡良仁がインディアンウェルズ・マスターズ2回戦で211cmのイボ・カロビッチ(クロアチア)を破った後の、会見での一幕である。

 小柄な挑戦者が大きな存在へと立ち向かうその構図を、欧米文化圏の人々はよく、旧約聖書の物語になぞられて「ダビデ対ゴリアテ」と形容する。小柄な羊飼いの少年ダビデが、知恵と勇気を武器に最強の兵士と謳われた巨人ゴリアテを破る――。その痛快な英雄譚(えいゆうたん)は、いつの時代も人々の心を躍らせる。インディアンウェルズ・マスターズで4回戦に到る西岡の戦いも、ダビデが数々のゴリアテたちを破っていくかのような旅であった。

 その冒険譚(ぼうけんたん)は、実は1回戦よりさらに前の予選決勝から始まっている。この試合での西岡は、20歳のイライアス・イーマー(スウェーデン)が繰り出す中ロブに対応しきれず、内部から崩れるように敗退した。ところがその直後、本戦に欠場選手が出たため、繰り上がりで予選を抜けたことを彼は知る。しかも初戦の対戦相手は、今しがた敗れたばかりのイーマーだ。期せずして訪れたリベンジの機に、無類の負けず嫌いが燃えないはずはない。

1 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る