相手が打つよりも先に動く。錦織圭の頭脳的な「サーブ誘導術」 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki  photo by AFLO

 さらに同じゲームで、グロスがセカンドサーブを打つ場面でのこと。ここでの錦織は、まずはベースライン近くに構えるが、相手がトスを上げると同時に、一気に後方へとポジションを変えた。グロスが高く弾むスピンサーブを打つだろうことを読み切った錦織は、ベースライン後方へと下がることによって、バウンド後のボールが落ちてきたところを余裕を持って打ち抜き、やはり強烈なリターンウイナーを決めたのである。

 このように錦織は、立つ位置や巧みな動きによって、相手に精神的な圧力もかけていった。

 そして、幾重にも張り巡らせた複線は第3セット、結果的にこの試合最後のゲームとなった第12ゲームで顕在化する。最初のポイント、さらには15-30の局面でも、グロスはダブルフォールトを犯したのだ。相手にしてみれば、必ずサーブを決めなくてはいけないこの局面で、今まで以上にベースラインに近いポジションで待ち構える錦織の姿が、プレッシャーになったのは想像に難くない。

 さらに興味深いのは、このゲームのデュースの場面でグロスは、この日最速の142マイル(約229キロ)のサーブを"ボディ"に打ったことである。おそらく錦織の読みとは、異なったであろうコース。しかし、錦織はこのグロス渾身の一撃を瞬時に腕を畳み込むようにして、バックハンドで綺麗に打ち返したのである。

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