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錦織圭の潔い決断。目指すべき地点は3回戦進出ではない (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki   photo by AFLO

 しかし、コーチのマイケル・チャンは、落胆する愛弟子に自身の経験を伝えることで、勇気を与え、説得を試みる。

「僕も以前に右腕を痛め、大会直前まで出場は無理だと思っていたことがあった。だが、兄の説得もあり出てみたら、初戦の相手は僕のフォアをまったく狙って来なかったため、ケガを悪化させることなく勝つことができた。そのうちにケガは徐々に回復し、僕はその大会で決勝まで勝ち進んだんだ」

 はたして錦織は全米オープンの出場を決意し、そこで師と似た体験をする。そうして彼はまたひとつ、自分の身体に対する見識を深めていった。

 ケガと、どう向き合うべきか?
 いかにうまく付き合いつつ、挑戦すべきときと、無理な局面を見極めるか?

 錦織の世界の頂点を目指す戦いとは、そのようにケガの「限界値」を見極めるプロセスでもあったはずだ。

 2週間前のハーレ大会でふくらはぎを痛めて準決勝を棄権したとき、錦織は「ウインブルドンに出られるかわからない」と口にした後、「でも、たいしたことはないと思う」と付け加えたのだと、現地にいたドイツ人記者から聞いた。なるほど、彼らしいな......と思う。失意の中で浮かんだ弱気を、必死に打ち消そうとする心の内の葛藤――。ネガティブになりそうな自分を否定し、ウインブルドンで戦う可能性を前向きに模索しながら、この10日間ほどを過ごしてきたのだろう。

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