クレー巧者を圧倒。錦織圭が2回戦で見せた「作戦変更能力」

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki   photo by AFLO

「今でも、良く覚えているよ。あれは、ベルッチとコロンビアで対戦した時のことだった。僕が試合前にいろいろとアドバイスすることを、彼(錦織)はあまり良く思ってないようだった。試合中に声を掛けられるのも、好きではなさそうだった。その時、僕は気がついたんだ。彼は、自分で作戦を考え、自分で決めたいタイプなんだってね」

ベンチ休憩している際も物思いにふける表情を見せていた錦織圭ベンチ休憩している際も物思いにふける表情を見せていた錦織圭 13歳から18歳までの錦織圭を指導したゲイブ・ハラミロ・コーチは、かつての教え子の「スマートさ」を物語るエピソードとして、8年前に南米のクレーコートで行なわれた「クレー・スペシャリスト」との一戦を真っ先に挙げた。

 2007年、当時17歳の錦織はコロンビアのATPチャレンジャー大会で、19歳のトマス・ベルッチ(ブラジル)と対戦。3-6、6-3、3-6のフルセットで敗れた錦織が、落胆のあまりにホテルの部屋から一歩も外に出ようとしなかったことを、ハラミロは記憶している。

 相手は、クレーを最も得手とするブラジル人選手。しかも、やりにくいサウスポー。

 試合前、あらゆるパターンを想定しながら作戦を練り、直前までシミュレーションを繰り返し、コート上では頭がクタクタになるまで戦術を駆使して戦い、その末に敗れた17歳の少年が、異国の地のホテルでひとり悔しさと疲労を抱え、動けずにいる姿が見えたような気がした。

1 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る