「錦織記念日」に振り返るツアー初優勝。7年前の真実 (3ページ目)
予定調和な空気が流れ、安穏と過ぎていくフロリダの昼下がり――。しかし、この瞬間から、18歳の驚異的な逆襲が始まった。
ブレークのショットが少しでも浅くなると見るや、身体ごとボールにぶつけるように踏み込んで飛び上がり、腕をしならせて鋭く振り抜く。すると、黄色いボールは潮風を切り裂き相手コートに突き刺さった。さらに、ブレークが強打を警戒して後ろに下がれば、柔らかく残酷なドロップショットをネット際に沈める。そして、錦織がドロップショットの構えを見せ、それを予測したブレークが対応すべく猛然とネットに駆け寄ると、さらにその裏をかき、咄嗟(とっさ)にフォアのスライスをストレートに流し込んだ。
スローモーションのように自分の横をすり抜けるそのボールを、足を止め、成す術なく目で追う世界12位……。世界244位のプレイに多くの観客は言葉を失い、一部の純粋なテニスファン、もしくは日本人からは驚愕と興奮の歓声があがった。第2セットは、錦織がブレークを圧倒。6-1の一方的なスコアで奪った。
スタンドを埋める日本人以外の観客は、この予想外の事態に態度を豹変させた。それまで錦織に向けられた優しい拍手は一転して、大会第1シード(ブレーク)への怒号に近い激励へと転化した。ブレークがポイントを取るごとに激しく手を叩き、叫び、金属製のスタンドを足でガンガンと踏み鳴らす地元ファン。若き挑戦者に向けられる、残酷なまでのアウェーの洗礼である。
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