25歳の錦織圭が意識する「同世代のライバルたち」 (2ページ目)

  • 内田暁●構成 text by Uchida Akatsuki  photo by AFLO

 先駆者たちの足跡に対する強い意識は、肩を並べる者、あるいは自身の背を追う追随者へのライバル心と表裏でもある。錦織本人は、「他選手の動向は気にしない」と言うものの、同世代の活躍は嫌でも耳に入り、耳に入れば心が泡立つだろう。2012年の全豪オープンでベスト8進出を果たした際も、3歳年少のバーナード・トミック(オーストラリア/22歳/世界71位)が前年のウインブルドンでベスト8入りしたことに触れ、「それもあって、(自分のベスト8入りを)そこまで喜べない」と言ったほどだ。トミックは、捲土重来を狙うテニス大国オーストラリアの期待を、一身に集めてきた選手。錦織が拠点とするIMGアカデミーでトレーニングすることも多く、互いに良く知る間柄でもある。そのような年下の選手に先を行かれたことで、無類の「負けず嫌い魂」に火が点いたのだろう。

 ならば、昨年の全米オープン準優勝の好成績も、その2ヶ月前のウインブルドンでミロシュ・ラオニッチ(カナダ/24歳/世界8位)とグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア/23歳/世界11位)が揃ってベスト4入りしたことと、無関係ではないかもしれない。ラオニッチは錦織より1歳、ディミトロフは1歳半の年少者。ふたりともテニス界の未来が語られる時、錦織と並んで必ず有識者たちの口にのぼるナンバー1候補だ。

 分けてもラオニッチは、昨年の楽天オープン決勝を錦織と争ったことで、日本でも名の知れたテニス選手のひとりになったかもしれない。両者の対戦は昨年だけで4回を数え、ウインブルドンではラオニッチが、全米オープンでは錦織が直接対決を制している。通算対戦成績は錦織の4勝2敗。2014年の最終ランキングは錦織5位、ラオニッチが8位。ツアー優勝回数は錦織7回に対し、ラオニッチは6回。激しいつばぜり合いを重ねるふたりの若武者は、ATPの公式サイトでも「2014年のライバル対決」として取り上げられた。

 このふたりのライバル関係が欧米メディアで語られる時、必ずと言って良いほど引き合いに出されるのが、旧約聖書に登場する『ゴリアテとダビデ』だ。身の丈3メートルの兵士ゴリアテと、小柄な羊飼いの少年ダビデの対決の物語である。見た目が対照的なふたりの戦士の一騎討ちは、洋の東西を問わず人々の心を躍らせ、好奇心を掻き立ててきた。日本の昔話ならさしずめ、「弁慶対牛若丸」と言ったところか。196センチのラオニッチと178センチの錦織の決戦は、そんな太古の伝説と同じ構図を持っている。

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