【テニス】錦織圭、全豪直前の心境「もう僕も、若手ではない」 (2ページ目)
もうひとつ、今の錦織から感じられる変化が、自分のテニスに対する『迷いのなさ』である。実は昨年の全豪が始まった直後、錦織は「まだ、少し迷っている」という印象的な言葉を残していた。その背景にあったのは、2011年の守備を重視したテニスだ。その年、錦織は守備を強化し、リスクを犯さぬテニスで大躍進を果たしたが、同時にその成績は、「攻めたい」という本能の犠牲の上に成り立ったものでもあった。もっと攻めるべきか、それもと今のスタイルを続けていくべきか......。その迷いが、2012年のシーズン開幕当初は常につきまとっていた。
そのような葛藤を振り切ったのが、昨年の夏だったろう。当時の錦織は「スランプ」という言葉を使うほどに、思い描くプレイと現実のギャップに喘(あえ)いでいた。だからこそ、改めて自分のテニスと真摯に向き合い、悩み、考え、その末に弾き出した答えこそが、「自分の持ち味は、攻撃だ。攻めていこう」である。「テニスの最大の魅力は、ウイナーを奪ったときの快感」だと語る天性のアタッカーは、迷うことなくラケットを振り切ることで、テニスに恋した幼少期の原点に立ち返った。その決断の正しさが絶対的に裏付けられたのが、昨年10月の楽天ジャパンオープン優勝だ。
さらには、今シーズンの開幕戦であるブリスベン大会の準決勝でも、錦織はアンディ・マリー相手に立ち上がりから攻め、一時は4-1とリードを奪った。結果的には、左ひざの痛みに悩まされ試合を途中棄権したが、昨年の全豪オープン準々決勝で敗れた相手にも『攻め』が通じたことは、自分の可能性を信じる根拠となったようだ。「昨年の対戦とはまったく違った展開だったし、(マリー相手に)4-1とリードを奪えたことはすごく自信になった」と言い切るその表情に、1年前に見せた迷いの影はない。
だがもちろん、棄権を余儀なくされたその結果も、錦織は重く受け止めている。トップ10という目標を掲げた際にも、「そのためには、1年を通じてケガなく戦うこと」との言葉を添えた。だからこそ今季は、スポーツ理学療法士のロバート・オオハシに、いくつかの大会に帯同してもらう予定だという。
ハンマー投げの室伏広治も指導しているオオハシは、シカゴを拠点に多くのアスリートをサポートしている。錦織も一昨年のオフにオオハシの指導を受け、その成果を実感。昨年11月にも2週間シカゴに滞在し、ラケットは一切握らず、負傷箇所のリハビリや、体幹を中心としたトレーニングを行なってきた。オオハシの魅力は「自分があまり使えていない筋肉を指摘し、そこを鍛えてくれること」だと錦織は語り、今回も臀(でん)部と肩甲骨まわりの筋力を重点的に強化。過去に幾度となくケガに見舞われた錦織にとって、オオハシの存在は大きな支えとなるはずだ。
冒頭にも触れたとおり、最近の錦織は「もう若さを言い訳にはできない」と口にする。それは安易な夢を見ることを、自分に禁じることでもあるだろう。そのうえで彼は、世界の十指を狙うと公言した。
道を整え、心を磨き、身体を鍛え、夢のような彼方を目指すリアルな旅――。それが今、全豪オープンから始まろうとしている。
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