【テニス】衝撃の楽天オープン。何が錦織圭を覚醒させたのか? (3ページ目)

  • 内田 暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

 ベルディハに完勝した翌日の準決勝、マルコス・バグダティス戦。3連敗中の天敵に、錦織は反撃の糸口すら与えることなく、わずか1時間で圧勝した。そして決勝のミロシュ・ラオニッチ戦でも、攻めてラリーを支配するプレイに変わりはない。特に第3セットは、相手に1ゲームも与えぬ、神がかり的な強さ。右肩上がりの成長の延長線上ではない。3回戦のベルディハ戦を機に、錦織は明らかに異なる次元へと足を踏み入れた。

「信じられない」――。決勝に進んだ時も、優勝した時も、錦織は同じ言葉を繰り返した。「この大会では、これまで『勝ちたい』という気持ちが空回りしすぎて、良いプレイをできなかった。縁がないのかと感じたこともあるし、気持ちがまだ弱いのかとも思った」。そうまで思い悩んだ大会で優勝したことが、まるで夢のようだと言うのだ。

 実に4年半ぶりとなるツアータイトルを、2年連続で初戦敗退を喫している日本の大会で手にした。テニス選手が年間約20大会に出場することを考えれば、たしかに今回の優勝は、奇跡的のようにも思える。

 だが、そうではない。「縁がない」とまで感じてしまった「空回り」は、「日本のファンに良いプレイを見せたい」という渇望が生み出す、負の側面である。しかも今大会では、初戦で日本人対決という『最悪のシナリオ』にも直面した。その苦境を乗り越えたことこそが、今大会後半の信じがたい強さを引き出したと断ずるのは、決して言い過ぎではないだろう。

 そして最悪のシナリオを書き換えた力とは、本人の言葉によれば、「ランキングも上がり、上位選手も破ってきた自信」であり、「経験が実を結んで強くなってきている証拠」である。4年の歳月の積み重ねや、錦織自身が中心となり引き起こした『日本テニス界の底上げ』と、それに伴うテニス人気――。それらの条件がこの日、この場所でそろったからこそ、錦織はテニス人生最高の瞬間を迎えたのだ。

 それは奇跡でも事件でもない。必然の覚醒である。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る