【車いすテニス】強豪ひしめく復帰戦で国枝慎吾が4強、不屈の精神でロンドンへ

  • 荒木美晴●文・写真 text&photo by Araki Miharu

ケガから復帰を遂げ、ロンドンへスタートを切った国枝選手ケガから復帰を遂げ、ロンドンへスタートを切った国枝選手 5月14日から19日まで福岡県飯塚市で開催された、飯塚国際車いすテニス大会(ジャパン・オープン)。毎年、国内外の選手が参戦するITFスーパーシリーズの大会だが、今年はロンドンパラリンピックの出場権をかけたポイントが稼げる最後の大会とあって、世界のトッププレーヤーが大集結。ハイレベルな戦いが繰り広げられた。

 とくに男子シングルスは現世界ランキングのトップ10が勢ぞろい。その中に、国枝慎吾(ユニクロ)の姿もあった。

 国枝は、2年間痛みを抱えてきた右肘を今年2月に手術。厳しいリハビリとトレーニングを経て、昨年9月の全米オープンの決勝以来、実に8ヵ月ぶりとなる実戦の場に戻ってきたのだ。その間、約5年ぶりに世界ランキング1位から転落し、3位となっていた。

 手術直後は自宅療養に努めたが、日常の車いすを違和感なくこげるようになるまで、3週間かかった。リハビリ中は都内の施設で一人、泊まりこみの合宿を実行。施設のトレーナーと二人三脚で、肘の可動域を広げるトレーニングや体幹系を鍛えるトレーニングに励んだ。その結果、瞬発力と筋力がアップ。チェアーワークのタイムは手術前よりも上がった。リハビリを終えたころには「パワーがみなぎっていて、これは楽しみだなと思った」と言うほど、屈強な肉体を手に入れた。

 4月初め頃からは柔らかいスポンジボールを使ったトレーニングを開始。肘の具合を見ながら、ボールの質を段階的に移行し、今大会の3週間前にようやく実践で使うノーマルボールでの練習を始めた。丸山弘道コーチは、「慎吾がコートに戻ってきて、初めてスポンジボールを打った時、久しぶりにイキイキとした表情を見ましたね。でも、焦りは禁物。本来は私も慎吾もイケイケタイプなのですが、今回は相当歯止めをかけながら、計画的に実行していきました」と振り返る。

 今大会は、肘の負担を少しでも減らすため、わずかだがラケットのガットを衝撃の少ないタイプに変えるなど、慎重な姿勢で臨んだ。2回戦では、左打ちの選手に苦戦。勝利したものの、2セット目を4-0から逆転され、タイブレークにまで持ち込まれたことに、「勝つ流れに持っていけなかった」と反省を口にした。一方で、3回戦では強敵のジェレミアス(フランス)を相手に、戦略通り先手を取り完勝。「ケガする前と同じ精神状態を作れて、コートが広く見えた。世界ランク6位の彼に勝ったのは大きいですね」と笑顔を見せた。

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