釜石で起きた大きな奇跡。不屈の精神でウルグアイと市民が歴史を創る (2ページ目)

  • 松瀬 学●文 text Matsuse Manabu
  • photo by Kyodo News

 南米の小国、人口約350万人のウルグアイが大会初戦なのに対し、フィジーは「中3日」の2戦目という過酷な状況だった。だからだろう、フィジーの動きが緩慢に見えた。ミスも目立った。もともとフィジーはボールを持った時と持たない時では、全く別のチームのようになる。特に、アンストラクチャー(崩れた局面)でボールを持たせると危険なのだ。

 ウルグアイはそこで、キックを減らし、短いパスでつないでいく戦法に出た。試合のラック成功数は相手71に対し、ウルグアイは112を数えた。スクラムは押されたけれど、崩されはしなかった。守っては、ひたむきなダブルタックルでピンチを再三、防いだ。

 エステバン・メネセスHC(ヘッドコーチ)によると、ウルグアイのラグビーの競技人口は約4千人でプロ選手は20数人しかいないそうだ。いわば「アマチュアとプロ選手の融合チーム」が一丸となって、愛称"フライング・フィジアン"のフィジーを飛ばせなかった。

 ノーサイドの瞬間、ウルグアイの控えメンバーとスタッフがグラウンドになだれ込み、歓喜の輪ができた。その後、幾人かの選手はスタンドの応援団のところに飛び込み、肩を組んで喜び合った。

 フランカーのファン・ガミナラ主将はテレビインタビューで「チームを誇りに思う」と言って、泣き出した。

「プロにアマチュア選手が交じった若いチームが、プロ集団に立ち向かっていった試合だった。でも、自分たちが主役だと思って攻撃を仕掛けていった。今日は歴史を創る大きなチャンスだった」

 震災の話題を振れば、同主将は「私たちがここでプレーしたというのは光栄なことだ」と神妙な顔つきをつくった。

「かつて悲惨なことが起こったにもかかわらず、釜石の人たちは信じられないくらい、自分たちの役割を果たし、よくしてくれた。震災を感じられないくらい、力強い復興を遂げているようだ」

 また、敗れたフィジーは震災の関連施設などを視察していた。ジョン・マッキーHCはこう、言葉に実感を込めた。

「8年前に起きたことを見せてもらったことは、興味深いことだった。(震災を)体験した人々と交流することも貴重なことだった。ここまで復興しているのはすごいことだ」

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