釜石で起きた大きな奇跡。不屈の精神で
ウルグアイと市民が歴史を創る

  • 松瀬 学●文 text Matsuse Manabu
  • photo by Kyodo News

 奇跡なのだ。"ラグビータウン"釜石市でラグビーワールドカップ(W杯)の初戦が行なわれたのは。東日本大震災から8年半。「鉄と魚とラグビーのまち」が熱闘に沸いた。

強豪フィジーに勝利し、抱き合って喜ぶウルグアイの選手たち強豪フィジーに勝利し、抱き合って喜ぶウルグアイの選手たち

「もう感無量で」。日本選手権V7の"北の鉄人"、新日鉄釜石ラグビー部の流れを汲む釜石シーウェイブス(SW)の桜庭吉彦ゼネラルマネジャーは涙声だった。25日の釜石鵜住居復興スタジアム。青色のポロシャツ姿で観客対応のボランティアを務めた。元日本代表ロックの53歳は釜石魂を口にした。

「みんなの笑顔がうれしくて...。決して順風満帆で釜石開幕を迎えたわけではなく、いろんなことを乗り越えてきたんです。倒れても立ち上がって、前に、前に進んできた結果、今日があるんです」

 午後2時15分のキックオフ直前、黙とうが捧げられ、静寂がスタジアムを包んだ。釜石市では1千人を超す市民が震災で犠牲になった。津波で流された鵜住居小学校と釜石東中学校の跡地にスタジアムが建設された。復興のシンボルとして。

 ここは何もなかったところだ。2015年1月のワールドラグビー(WR)幹部のW杯立候補地の視察では、釜石の子どもたちがまだ何もないスタジアム建設予定地の四隅に分かれ、完成のイメージをしてもらうため、カラフルな大漁旗をずっと振り続けていた。凍てつく寒さの中、1時間も2時間も。

 それがどうだ。この日は、ほぼ満員の約1万4千の観客がスタンドを埋めた。被災地の1千数百の小、中学生の愛らしい声も飛んだ。大漁旗をモチーフとしたTシャツ姿のファン、青色の小旗も目についた。

 試合は、この日の空のようなスカイブルーのジャージーのウルグアイ代表がラグビー強国、白ジャージーのフィジー代表に30-27でアップセットを起こした。最新の世界ランキングがウルグアイは19位、フィジーが10位。震災を乗り越えた釜石のごとく、「不屈の精神」をモットーとするウルグアイは、一つひとつのプレーにパッション(情熱)があふれていた。

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