代わりなき男・トモさんが日本を鼓舞「みんながグッとひとつになる」 (3ページ目)

  • 松瀬 学●文 text Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●写真 photo by Saito Ryutaro

 チームが窮地になれば、声も出す。FWの動きを間近に見るスクラムハーフ(SH)の流大は「"頼りになる"のひと言です」とトンプソンを評した。

「練習からぜんぶ、100%ですし、やっぱり、みんながトモさんのことを信頼している。あれだけ、からだを張って、チームを引っ張ってくれるんですから。トモさんが何かを言えば、みんながグッとひとつになるんです」

 この日も後半、試合が膠着しているとき、トモさんは大声を張り上げたそうだ。「何も悪くない。いっぱい練習してきたんだから、自信持ってやろう」と。

 ニュージーランド出身のトンプソンは2004年に三洋電機(現パナソニック)に加入し、06年から近鉄でプレーしている。10年、日本国籍を取得。ラグビーワールドカップには3回、日本代表として出場した。とくに15年のイングランド大会では4試合ともフル出場し、3勝1敗の原動力となった。最後の米国戦の直後、日本代表引退を宣言した。

 だが、日本代表にケガ人が続出したこともあって、請われて、17年春のアイルランド代表戦に出場した。今年に入って、親しいトニー・ブラウンコーチから電話をもらった。スーパーラグビーの日本チーム、サンウルブズでプレーしてはくれまいか。自ら「おじいちゃん」と笑うトンプソンは言った。

「available(大丈夫)」

 トンプソンは、サンウルブズでも100%の全力プレーに徹した。日本代表候補の宮崎合宿に呼ばれた。妻も背中を押してくれた。日本代表として4度目のRWC出場を目指す。

 ブラウンコーチはこの日、ジョセフHC不在で、急きょ、日本代表のHC代行を務めた。80分間フル出場のトンプソンのパフォーマンスはどうでしたか?と聞けば、44歳のブラウンコーチは「38歳だよ」と驚愕の顔付きをつくった。

「なんという男だ。一生懸命、練習をしている。代わりがいない、本当に頼りがいのある選手なのだ」。少し、間をおいて、繰り返した。「38歳なのだ」

 若さを保つヒケツを問えば、トンプソンはかつて、「ナチュラル(自然体)」と笑っていた。メディカルスタッフ、トレーナーのアドバイスを忠実に守り、オイルマッサージなどでからだの手入れは怠らない。「食事とライフスタイルは、バランスを大事にしている」。時にはお好み焼きも食べる。あとは、「ハードワーク」である。

 チームとしても、個人としても、まだ課題はある。疲れがたまった後半にブレイクダウンの寄りのスピードが落ちた。相手にからまれ、ボール出しが遅れた。ターンオーバーも許した。

 フィジーに続き、"仮想サモア"のトンガに勝ったとはいえ、これで「ベスト8はいける」なんて考えるのは安直すぎる。W杯でのアイルランド、スコットランドはぐっとチーム力をあげてくる。

 W杯に向け、ロック(LO)候補は6人。W杯のことを聞けば、トンプソンは言った。

「まだ(W杯)メンバーはわからない。僕の判断じゃない。毎日、自分の仕事だけ、集中ね。アピールね」

 前回の2015年W杯では南アフリカを倒し、日本ラグビーの歴史を変えた。今度はベスト8に進み、ふたたび歴史を変えようとしている。愚問ながら、W杯に出たいか?と聞けば、トモさんは声のトーンを上げた。

「もちろん、だよ」

 日本代表は、今月末にはRWC最終メンバー31人が決まる予定だ。トモさんのあくなき挑戦はつづくのである。

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