代わりなき男・トモさんが日本を鼓舞「みんながグッとひとつになる」

  • 松瀬 学●文 text Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●写真 photo by Saito Ryutaro

 魂が揺れた。真夏の夜の熱闘だった。試合前、母の急死でジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)はニュージーランドに緊急帰国した。ラグビー日本代表は黒い喪章となるテープを腕に巻き付けてプレーした。

地元とも言える花園で躍動したトンプソン・ルーク地元とも言える花園で躍動したトンプソン・ルーク

 チームの最年長、38歳の"トモさん"ことトンプソン・ルークにとって、東大阪・花園ラグビー場は「我が家」のようだった。この地を本拠地とする近鉄に14年間所属。地元ファンの声援を受け、いつものごとく、献身的なプレーでチームを鼓舞した。

 8月3日の夜。日本代表は、ラグビ―ワールドカップ(RWC)のため、大幅改装されたラグビー場で躍動し、トンガ代表を41-7で圧倒した。試合後、テレビインタビューを受けたトンプソンはひとり遅れてバックスタンド前に走り、深々と頭をさげた。大きな声援と拍手。

「エモーショナル(感情的)だね」と、トンプソンはしみじみと漏らした。独特のイントネーションの大阪弁でつづける。

「めちゃ、心いっぱいね。花園は僕のウチ、僕の実家みたいね。花園人はすばらしい。みなさん、すごく、応援してくれた。あの、もう、めちゃくちゃ、うれしい」

 トンプソンにとっても、改装後初めての試合だった。「エモーションはちょっと、高かった。緊張した」と打ち明ける。ジョセフHCの母の急死の話題になると沈みこんだ。

「難しいね。僕らみんな、ジェイミーに尊敬...。日本語がよくわからないけど、彼のためにもいいプレーをしたかった。彼のために...。だから、いい結果はうれしい」

 もちろん、試合になれば、トンプソンも他の選手も、試合に集中した。

「あの、僕は自分の仕事だけ、集中ね」

 テストマッチの立ち上がりは重要である。ポイントのひとつが、ラインアウトからのモールの攻防だった。先のフィジー戦ではここでのディフェンスでやられた。でも、この日は違った。開始直後、ウイングの松島幸太朗が故意のノックオンでシンビン(一時的退場)となった。その数的不利にあって、ゴール前のピンチのラインアウトとなった。

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