奇跡ではなく必然だった。ラグビー
日本代表のジャイアントキリング

  • 松瀬 学●文 text Matsuse Manabu
  • ロイター/アフロ●撮影 photo by Reuters/AFLO

平成スポーツ名場面PLAYBACK~マイ・ベストシーン 
【2015年9月 ラグビーW杯 日本代表vs南アフリカ代表】

 歓喜、驚愕、落胆、失意、怒号、狂乱、感動......。いいことも悪いことも、さまざまな出来事があった平成のスポーツシーン。現場で取材をしたライター、ジャーナリストが、いまも強烈に印象に残っている名場面を振り返る――。

2015年のラグビW杯で南アフリカに勝利し、大喜びする日本代表2015年のラグビW杯で南アフリカに勝利し、大喜びする日本代表

 あれは夢か現(うつつ)か幻か。2015年にイングランドで行なわれたラグビーワールドカップ。それまでの7大会でたった1勝しかしていなかった日本代表が、初戦で優勝候補の南アフリカ代表に34-32で劇的な逆転勝利を収めた。ラグビー界の枠を越え、スポーツ界にも衝撃を与えたジャイアントキリング。「ブライトンの奇跡」とも言われた。

 目をつむると、まず思い出すのは「吉兆の虹」である。今でも私の脳裏に残る異国の空がある。綺麗な「ダブル・レインボー」だった。吉事のおこる前兆と言われる、二重にかさなったカラフルな虹だった。

 大会の開幕戦を3日後に控えたイギリス・ブライトンのグラウンドだった。日本代表は練習を終え、エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ/現イングランドHC)も選手たちも、ただ空を見上げていた。グラウンドの上にできたきれいな虹、これは何かの吉兆だと思った。

 日本の準備は、ほぼ完璧だった。『ジャパンウェイ』(エディーHCが掲げた日本の戦い方のテーマ)の徹底から戦術の落とし込み、レフリーの癖、各選手が向かい合う選手の特徴の確認。エディーHCは、宿舎ホテルからスタジアムまでの時間を知るため、チームバスの運転手に対し、何度も練習させていた。なんと言っても、選手たちの顔つきが違った。マインドセット(心構え)が充実していたからだろう。

 大義はこうだった。選手の誰もが同じことを口にしていた。「日本のラグビーファンを幸せにできる喜び」「日本ラグビーの新しい歴史を築いていく楽しさ」。次の2019年RWCは日本で開催されることが決まっていた。初戦前日のミーティング。モチベーションビデオの最後の映像にはこう、書かれていた。

<CREATE NEW HISTORY!>

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