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鳥内秀晃が日本スポーツ界の病理を斬る。「鉄拳制裁、パワハラ、そんなのスポーツやない」 (5ページ目)

  • 中村計●取材・文 text by Nakamura Kei
  • photo by Sankei Visual

―― 稀勢の里がケガを押して出場した2017年3月場所の劇的な逆転優勝を世間も美談として受け止めましたが、あれも危ない傾向ですよね。

鳥内 そういう風潮はよくない。僕は選手が不調を感じたら、休んでええでと言っていた。周りもそれに対して文句は言うな、と。堂々と休める環境をつくってやらんと、選手はどうしても無理してしまうんでね。それに、そういう環境をつくったほうが選手自身、自分の行動に責任を持つようになる。練習しなければうまくならないことはわかり切っているので、選手の判断に任せたほうがケガも減るんですよ。

【特待生にも勉強くらいはさせなあかん】

―― 最後にもう1つ、アマチュアスポーツはとかく「人間教育」だという論が出がちです。ただ、それを言いすぎると、先ほど鳥内さんも大事だと話されていた「スポーツとして楽しむこと」が置いてけぼりにされてしまう気もするのですが。

鳥内 楽しむことは大事ですけど、僕も「うまいんやから、他はどうでもええやん」というスタンスは嫌いです。少なくともファイターズは、そういうチームではない。選手が社会人になった時、うちのOBは「もう研修は終わってますよ」くらいまでにしたい。

―― プロになるからそんなプログラムは必要ない、と選手に返されたら。

鳥内 プロになれなかったら、どうするんですか。僕は学生の「プロ化」がいちばん嫌いなんです。僕がアメリカに留学していた頃は、ひどかった。将来、NFLに進めるような選手は最低限単位を取ればええという感じでね。そういうやつらが、学生ギャングみたいになったりして。悪評が立つと、プロ入りもできない。そうなったら、セカンドキャリアも何もあったもんじゃない。だから僕は今、プロスポーツ選手のセカンドキャリアを支援する会社も手伝っているんです。現役を終えた時の人生を大事にしてほしいので。

 ラグビーの福岡堅樹選手のような人がもっと出てくれば、日本のスポーツ界も変わるんですけどね。特待生などで全国から優秀な選手をかき集めてもええ。でも、指導者の責任として、学生に勉強くらいはさせなあかんでと言いたいですね。

Profile
鳥内秀晃(とりうち・ひであき)
関西学院大学アメリカンフットボール部「ファイターズ」前監督。1958年生まれ、大阪府出身。1978年、関西学院大学に入学し、アメリカンフットボール部に入部。ディフェンスバック、キッカーとして活躍する。大学卒業後、アメリカでコーチ留学、1986年からファイターズのコーチを経て、1992年に監督就任。以降、甲子園ボウルの優勝に12回導き、2002年にはライスボウルも制覇した。2019―20年シーズンを最後に監督を引退。著書に『どんな男になんねん 関西学院大アメリカンフットボール部 鳥内流「人の育て方」』(ベースボール・マガジン社)。

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