ハンドボール日本代表・土井レミイ杏利が人種差別を経験して気づいたこと
「レミたん」──若い世代の間では、TikTokで200万人のフォロワー数を保持するこの名前の方が浸透しているかもしれない。
「もともと友人を笑わせるために始めた」というが、ユニークなダンスや表情でバズって、知名度はうなぎのぼりだ。その動画で見える明るさ、ポジティブさ、ブレない姿勢には、これまでさまざまな苦難を乗り越えてきた人間の強さが見え隠れする。
ハンドボール界のエースであり、日本代表のキャプテン・土井レミイ杏利が、その強固なメンタルを確立してきたプロセスをたどる──。
ハンドボール日本代表のキャプテンを務める土井レミイ杏利 小学3年の時にハンドボールを始めた土井が、メンタルを鍛えられたのが大学時代だった。当時、日体大の体育会でとくに厳しいと言われていたのがラグビー部とハンドボール部だった。
日体大のハンドボール部は2006年から2009年まで学生選手権4連覇を達成するなど、大学屈指の強豪チームだった。全部員が寮生活を送るのだが、当時の寮内には独自のルールが設定されていた。
「僕が入学した頃は4年が神様、3年が王様、2年が人間、1年が奴隷でした。1年は入寮したら、部屋の入り方、あいさつの仕方をはじめ、私生活や試合の日のルールなど、2年生から教育を受けるんです。基本的に1年生が休まる時間は寝ている時だけ。それ以外はずっと緊張しっぱなしでした」
いろんな厳しいルールがあるなか、土井が一番キツいと感じていたのが"起床係"だった。先輩の部屋のドアにホワイトボードがあり、そこに起床時間と名前が書かれている。その時間に起こしにいくのだが、そこには厳しいルールが存在した。
まず2回ノックしてドアを開け、前を見たままドアを閉める。寝ている先輩にうしろ姿を見せるのはご法度である。「土井です。失礼します。何時何分です」といった具合に、起こす際のセリフも決まっている。
「1回で起きてくれればいいんです。でも起きない場合、1回部屋を出て、1分後に入って、同じように繰り返す。それを先輩が起きるまで繰り返すんです。時間がかかりすぎると遅刻するので怒られるし、声が大きすぎても『うるさい!』って怒鳴られる。一度、先輩が起きるまで2時間45分ぐらいかかって......もう最悪でした(笑)」
1 / 5