ハンドボール日本代表・土井レミイ杏利が人種差別を経験して気づいたこと (4ページ目)
欧州のプロスポーツは、自己主張が当たり前の世界だ。選手同士はもちろん、監督に対しても納得できないのであれば遠慮なく意見をぶつける。土井はそうした欧州の常識を理解できていなかったのもあるが、冷静な「気づき」が環境を変えるトリガーになった。
「一番大事だなって思ったのは、日本人は他人を敬う気持ちを大事にしますが、自分を卑下してまで敬う必要はないということでした。もっと自分をリスペクトしようと。そうして自分を出していくと、みんなの接し方が変わってきました。『フランスで見つけたものはなんですか?』ってよく聞かれるのですが、僕は自分を出せるようになったことだと思います」
2019年、世界選手権が終わったあと、土井は日本に帰国した。東京五輪が迫りつつあるなか、チームとして結果を出すには、帰国して代表に集中したほうがベストだと感じたからだ。
フランスから戻ると、日本代表に足りないものを痛感したという。
「パワーが足りないのは事実ですけど、それよりもメンタルに一番差があったんです。そこに気づいている人がほとんどいなかった。そこでどうするか、監督と話し合いをしたんです」
メンタル強化の方法論で、土井とダグル・シグルドソン監督の考えは一致していた。まずは海外での試合を増やし、それまで年間10試合程度だったのを30試合にした。さらに講習会を実施し、積極的にディスカッションを行ない、メンタルを強化していった。
「これまで弱気になっていた海外との戦いにも慣れて、平常心で臨めるようになりました。講習会は今も続けていますが、そうしていくことで戦う姿勢が変わったと思います。僕が代表に入った頃(2015年)は、これから試合だというのにヘラヘラしている選手がいましたが、今は勝つためにみんなが集中して、無駄話をしている選手はひとりもいません。でも、一番大きく変わったのは、勝負どころで逃げなくなったことですね」
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