鳥内秀晃が日本スポーツ界の病理を斬る。「鉄拳制裁、パワハラ、そんなのスポーツやない」 (4ページ目)

  • 中村計●取材・文 text by Nakamura Kei
  • photo by Sankei Visual

―― 関学は関学なりの厳しさを持ったクラブであることはわかりました。ただ、近年は、その「厳しさ」が本人の受け取り方次第によって「パワハラ」と認定されることもある。そのあたりは難しくありませんでしたか。

鳥内 事前に説明しておくしかないでしょうね。厳しい言い方をすることもあるで、と。特にアメフトは、安心、安全には何事も代えられませんから。そこは厳しくいかざるを得ない。ただ、プロスポーツの世界でもプレー中、味方に激しく怒っているシーンを見かけますよね。それらをいちいちパワハラやって言うんですか? そんなことをしてたら、瞬間瞬間、状況が変わるスポーツは成り立たない。それらのことも全部、言っておいたほうがいいでしょうね。

―― アメフトの世界でも体罰は聞きますか。

鳥内 うちはなかったけど、昔は、ヘルメットが入らなくなるくらいドつかれたみたいな話はありましたね。試合中、サイドラインのところで監督にしばかれたり。

―― 鳥内さんは体罰がダメな理由を聞かれたら、なんと答えますか。

鳥内 暴力やから。犯罪ですよ。あんなもん、指導でもなんでもない。

【横綱審議委員も、いらんこと言うな、って】

―― 最近は高校野球を筆頭に、学生スポーツの試合日程があまりにも過密なことが問題視されています。故障につながりやすい、と。そのあたりはどう見ていますか。

鳥内 大学まで全国大会は必要ないんちゃいますか。全国規模の大会をやるから、日程に無理が出てくる。阪神で今、話題を集めているルーキー、佐藤輝明選手がいるでしょう。彼は高校時代に肘を壊しているんです。彼のお父さんは柔道家で、関西学院の先生。お父さんは多少無理してもやらせるべきだという考え方でしたが、我々の共通の友人でもあるスポーツ指導者は反対していた。やりながら治るケガと、休まないと治らないケガってあるんですよ。

 稀勢の里もそうやったな......。2017年の3月場所で、故障を押して出場し、優勝しましたが、あの時の無理がたたって、それから2年もたたずに引退した。あの場所が悪循環のはじまりやった。本人と直接話した時、「悔いはない」と話していましたが、あったでしょ。

―― 相撲の世界は、休むことに特に厳しいですからね。

鳥内 これだけスポーツ科学が発展しているのに、今も古い考えに支配されている。「土俵のケガは土俵の砂で治す」みたいな文化があるやないですか。相撲を経験したことのない横綱審議委員も、いらんこと言うな、って。そのあたり、もっと柔軟にやれば、力士も"長持ち"しますよ。本場所でケガした選手は公傷扱いにし、全休しても番付が落ちないようにせなあかん。認めてやらんから、無理して出て、さらに傷を深めてしまう。今、相撲界は(体の)大型化がすすんで、昔よりはるかに危ない。つまり、現状は相撲界自身が自分で自分の首を絞めてるようなもんなんですよ。

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