世界卓球で注目の15歳、長崎美柚の折れかけた心を支えたもの
【長崎美柚 15歳の才能を支える絆】(後編)
ひとりで抱えた葛藤
「このままだったら、美柚ちゃん、ダメになっちゃうかもしれない」
岸田クラブ(神奈川県藤沢市)の代表を務める岸田晃の娘で、日本生命監督の聡子からそんな報告を受けた時、5歳の頃から長崎美柚(みゆう)を指導してきた岸田や、コーチの村守ひとみは複雑な思いを隠しきれなかった。
小学校を卒業後、JOCエリートアカデミーに進んだ長崎美柚「中国選手に対抗できるように」と、回転量の多いドライブを打てるように指導を続け、小学生時代はバンビ、ホープス、カブと年代別のすべてのカテゴリーで全国の頂点を極めた才能が、2015年4月に東京のエリートアカデミーに進んで以来、伸び悩んでいることに気づいていたからだ。
「美柚が東京のエリートアカデミーに入ってからの試合を何度か見る機会があったのですが、勝ち負けはともかく、美柚らしい、しなやかで伸びやかなプレーが見られなかったんです。どこか気持ちにも迷いがあるようでした。聡子さんからの報告は、悪い予感が現実になったという感覚でした」と、村守は振り返る。
故郷を離れ、新たな環境と人間関係の中にたったひとりで飛び込んだ少女が、心身のコンディションを崩しても不思議ではない。感受性が強く、大人たちと接するのが決して器用なタイプではなかった美柚はひとりで苦しんでいるのではないか......。
そう考えた村守は、東京へ向かった。
久しぶりに顔を合わせた愛弟子は、見るからに憔悴(しょうすい)していた。世界のトップを目指すためにやってきたはずのエリートアカデミーで、自分はどうすれば強くなれるのか。周囲は自分の力を信じてくれているのか。そんな迷いや不安を拭えないまま、幼い心は行き場を失っているようだった。
顔を伏せがちな長崎を見つめながら、村守は覚悟を決めて言った。
「アカデミーをやめて、岸田クラブに帰ってくる?」
長崎は困惑した表情を浮かべたが、すぐに首を振った。
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