パリオリンピック女子バスケ 世界の加速的レベルアップにのまれた日本 今後目指すべき方向とは?【萩原美樹子の視点】 (3ページ目)

  • 生島 淳●取材・文 text by Ikushima Jun

【新たなコンセプトを探求し再スタートを】

 8年前、リオデジャネイロ大会までは、日本と対戦する相手国とすれば、「速くて、スリーがあって面倒だけれど、40分間トータルで戦えば、インサイドで制圧できるし、そこまでアジャストしなくてもいいだろう」という存在にすぎなかったと思います。つまり、特殊ではあるが、そこまで対策の必要のない相手だったのです。

 ところが、日本が銀メダルを獲った。当然、対策を講じてきます。

 今回、対戦したアメリカ、ドイツ、ベルギーはそれぞれ異なるカラーのチームでしたが、共通して言えるのは、日本に3ポイントを打たせないようにすることと、プレスディフェンスへの対策を丁寧にしてきたことです。日本が立て続けにシュートを決めた時には、すかさずタイムアウトを取り、流れを分断してきました。各国の「日本対策」の戦術の立案と遂行が完璧に行なわれた印象です。

 この3試合を受け、改めて突きつけられたのは「サイズ」という日本のバスケットボールにとって永遠の命題です。

 今回は、メンバー入りした町田瑠唯、本橋菜子、宮崎早織、吉田亜沙美、山本麻衣の5人選手は170センチ未満です。そのことからも恩塚HCが、速さを重視して選んだことがわかります。

 試合中も3人のガードが同時にプレーする「スモール・ラインナップ」の時間帯が見られましたが、それにはリスクが伴いました。

 最後のベルギー戦を見ると、ペイントエリアにボールを入れられた場合、ガードがローテーションでダブルチームにいって抑えようとしたのですが、相手のセンターのパスさばきがうまく、外にパスアウトされ、そこから3ポイントを決められていました。ダブルチームにいったとしても、ガードの身長が低いため、外にパスを出されてしまうのです。内も、外も抑えられない。そして必然的にリバウンダーも小さくなる。それがベルギー戦の現実でした。

 やはり、オリンピックの舞台で戦うためには180センチ以上あるオールラウンダーを育成していくことが必要です。

 世界のレベルアップを目の当たりにすると、オリンピック出場は簡単なことではないと実感します。4年後のロサンゼルスオリンピックに向け、しっかりとしたコンセプトを打ち出し、オールジャパンで強化に当たる必要がある−−現場に携わる一員として、そうしたことを実感しています。

 ただ、今回に関して言えば、前回の銀メダルを受け、金メダルに果敢にチャレンジせざるを得なかった。

「金」しか目指せない状況は、タフです。スタッフも選手も全力を尽くしての結果ですから、現実は現実として受け止め、次の4年につながるコンセプトを発見していく丹念な作業も必要ではないかと思うのです。

【Profile】萩原美樹子(はぎわら・みきこ)/1970年4月17日生まれ、福島県出身。福島女子高→共同石油・ジャパンエナジー(現・ENEOS)→WNBAサクラメント・モナークス→WNBAフェニックス・マーキュリー→ジャパンエナジー。現役時代は、アウトサイドのシュート力に定評のあるフォワードとして活躍。日本代表でも多くの国際大会に出場し、1996年アトランタ五輪では1試合平均17.8得点、3Pシュート成功率44.2%をマーク。準々決勝のアメリカ戦でも22得点をマークするなどその活躍が目に留まり、翌年、ドラフでWNBA入りし、2年間プレーした。現役引退後、早稲田大学を卒業。指導者として同大女子バスケボール部、2004年アテネ五輪女子代表のアシスタントコーチを務めるなど経験を積み、現在はWリーグ・東京羽田ヴィッキーズで指揮をとる。

プロフィール

  • 生島 淳

    生島 淳 (いくしま・じゅん)

    スポーツジャーナリスト。1967年宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大学卒業後、博報堂に入社。勤務しながら執筆を始め、1999年に独立。ラグビーW杯、五輪ともに7度の取材経験を誇る一方、歌舞伎、講談では神田伯山など、伝統芸能の原稿も手掛ける。最新刊に「箱根駅伝に魅せられて」(角川新書)。その他に「箱根駅伝ナイン・ストーリーズ」(文春文庫)、「エディー・ジョーンズとの対話 コーチングとは信じること」(文藝春秋)など。Xアカウント @meganedo

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