馬瓜エブリンが「人生の夏休み」を経て変化したふたつのこと 「吠えるリーダー」となってパリ五輪へ! (2ページ目)

  • 小永吉陽子●取材・文 text by Konagayoshi Yoko
  • 加藤誠夫●写真 photo by Kato Yoshio

【「夏休み」がもたらした心身両面でのプラス要素】

エブリンは「人生の夏休み」の成果を存分にコート上で発揮しているエブリンは「人生の夏休み」の成果を存分にコート上で発揮しているこの記事に関連する写真を見る

 それにしても、パワーアップして帰ってきたものだ。エブリンがもっとも変わったのは3ポイントの成功率だ。

 前任のトム・ホーバスHC体制のときから、持ち味のパワープレーだけでなく、要所で3ポイントを決めきる戦力となっていた。ただ、エブリンに求められていた主な役割は、ベンチから出てきてディフェンスで流れを変えること、3ポイントを打つことで相手のディフェンスを広げながら、パワーを生かしてペイントにアタックをすることだった。そうしたなか、3ポイントにおいてはどちらかと言えば、少ない試投数でチャンスを生かさなければならなかった。それが今では、試投のチャンスが増えている。

 OQTでは、スペイン戦で6本中3本、カナダ戦では4本中3本と高確率で3ポイントを決めている。Wリーグのファイナルでも3戦通して20本中9本を沈めて45%と高い数字を叩き出した。いったい、何が変わったのだろうか。

 その答えは、スポーツ選手にとって、勇気ある行動を起こしたと言える「1年の休養」にある。エブリンにとって有意義だった「人生の夏休み」はふたつの変化をもたらしていた。

 ひとつ目の変化は筋肉量と体形の違いだ。

"夏休み"に入る前の2021-22シーズンも現在も、身長は180センチ、体重79キロで数字上の変化はない。鍛えられた背筋と臀部はパワープレーを生み出すために必要なものだ。ただ1年間、体を鍛える日常ではなくなったことで「上半身がめちゃめちゃ痩せた」と本人は言う。とくに肩から腕と胸のあたりの筋肉が落ちたことで、シュートの際に両手を寄せて構えるときに筋肉が邪魔しなくなり、シュート感覚がよくなったと言うのだ。

 復帰に向けて、母校の桜花学園高でシューティングをしていたときに「あれ、打ちやすくなっている」と気づき、「今のベストな体形がわかってきた」と新たな発見に至った。

 以前はベンチプレスで鍛え込んでいたうえに、体が硬かったことで、上半身の筋肉をほぐしてからでないと、腕を寄せることができなかった。もっとも、これまでやってきたパワーをつけるためのトレーニングが間違っていたわけではない。

「年齢を重ねていくなかで自分のベストな体形がわかり、プレースタイルが徐々に変化していっているのだと感じます」

 今では、プルアップの3ポイント(ドリブルからの流れで打つシュート)も打てるようになった。これは以前にはなかったプレーで、OQTでも相手チームがスカウティングできなかった部分だ。今までと違うタイミングで打てるようになった3ポイントは、エブリンにとっても、日本代表にとっても、新しい武器になった。まさに、"ケガの巧妙"ならぬ、"休みの巧妙"である。

 もうひとつの変化はメンタルの安定によって、迷いを断ち切れたことだ。

 休養中に事業を立ち上げたことで、さまざまな人と出会い、メディア出演が盛んになり、コミュニケーションを図る場が格段に増えた。「その場その場で考えなきゃいけない状況がたくさんあったので、その思考力がバスケに生かされているのだと思います」と語る。

 東京五輪前のエブリンは、「代表の選考合宿から逃げ出したいと思う時期もあった」と明かす。競争を勝ち抜くプレッシャーに耐えられず、自分自身をうまく出せないことも多かった。

 ただ、人生の夏休みを経験したことで「自分が外からどう思われているとか、どう見られているとか意識することがなくなり、それが解放感になって、自分の持っているものを出していいんだと思うようになった」と言う。選手選考も同じだ。

「一生懸命に練習して、自分が必要だったら選ばれるし、もし選ばれなかったとしても、それが人生のすべてではない。若い頃は経験がなかったので、ガチガチになって選考に挑んでいたけれど、少しずつ経験を重ねたことで、自分らしく一生懸命に戦ったのであれば後悔はない、と割りきれるようになりました」と笑顔を見せた。こうしたメンタルの安定と思考力が、思いきりのいいプレーを生み出している。

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