富樫勇樹と河村勇輝 バスケ日本代表2人のPGの「違い」をレジェンド佐古賢一が語る (2ページ目)

  • 牧野豊●取材・文 text by Makino Yutaka
  • photo by YUTAKA/アフロスポーツ、加藤誠夫/アフロ

――一方の富樫選手はいかがですか。今回はチームキャプテンとしての重責を果たしましたが、オフェンス面では本来の力を発揮できず(1試合平均4.0得点、3.4アシスト)、プレータイムも河村選手の方が長くなりました(平均15.0分、河村は23.8分)。

「僕は、数字云々ではなく、今回の経験を経て彼のバスケットボールがすごく深くなったんじゃないかなと思っています。これまでは彼のオフェンスに注目が集まっていたと思いますが、今回のW杯で一番彼に求められていたものはリーダーシップで、地元開催の大舞台でプレッシャーは半端なかったはずです。バスケットボールって、浅ければ浅いほど結果につながる部分、数字(スタッツ)で判断する傾向があるのですが、深くなれば深くなるほど数字やスタッツに出てこない部分で、勝利に対する貢献度などが表われてくるのです」

――達人の領域的な話ですね。もう少し具体的にお願いします。

「今回、表に見える部分(スタッツ)では河村選手や富永選手(啓生/米国・ネブラスカ大)といった若手選手が目立ちましたけど、富樫選手は試合の流れのポイントをよく抑え、チームのリズムを作った上で自らシュートを打っていました。無理やり打つ場面はほとんどなかったはずです。だから自分のシュート率が悪くても、ガードとして他の選手にいいリズムでシュートを打つ機会を作ることで貢献していたという意味です」

――順位決定戦に入ってからは、富樫選手はベンチに座る時間が長くなりました。悔しさもあったと推測しますが、声を出したり、タイムアウトの時に河村選手に声がけしている場面も印象的でした。

「同じポイントガードの選手に声がけすることって、ゲームの流れを正しく把握して、ある程度イメージができていないとできないことなんです。はっきり言って難しい。しかもチームのリーダーである以上、自分のポジション以外のことも考えなければならない。だから、富樫選手はベンチにいた時も、常に考え、自分がいつ出てもいい準備ができていたからこそ河村選手に声がけできていたんだと思います」

――それが、数字には見えない部分の貢献度。

「勝利に対しての深さ、と表現できるかもしれません。勝たせるポイントガードと魅せるポイントガードは違うという考え方になってくるので、葛藤も出てくる。比較にならないかもしれませんが、自分が若い時は、"オレオレオレオレ、オレがいすゞ(自動車)でしょ! 日本代表でしょ!"みたいところもありましたが(笑)、それだけでは勝つことが難しいことに気づく時期って絶対来るんです。そこからが本当に"沼"なんですよ、キリがない。そして沼にハマればハマるほど、人としての強さが求められてくる」

――むしろ富樫選手は、これからがさらに楽しみであると。

「そういう分岐点を今、迎えられるのって、彼は"持ってる"と思いますよ。30歳なんてめちゃめちゃいい時期ですし。それに沼だから、ゴールはないんです。ずっと追い求め続けるからこそ、奥深いんです」

【二人の相違点と今後への期待】

――富樫選手と河村選手のプレースタイルについてうかがいます。170cm前後の身長、卓越した状況判断、アウトサイドを含めたシュート力が武器と、一見似ているタイプですが、佐古さんから見ていかがですか。

「かなり違いますね。まず人間性、今まで選手として育ってきた環境が違います。河村選手は、福岡第一高時代もそうですが、勝つ環境に身を置いてきたこともあり、勝つためのルーティーンをすごく大切にしている。一方の富樫選手は自分のリズム、自分自身がこうありたいということを大切にしている印象です」

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