【F1】日本GPの結果次第でホンダPUの「異常振動」問題が長期化する可能性......浅木泰昭が推察 (2ページ目)
【日本GPでのアップデートに注目】
PUが加振源、その言葉どおりに振動を発生させる原因で、バッテリーはその振動の受け手になり、走行をすると激しい振動が発生してバッテリーにダメージを与えています。この問題をどう迅速に解決するのかがホンダの技術者に今、問われています。
シーズンオフのテスト走行で十分に走れなかったなかで、開幕戦のオーストラリアGPまでにできることは限られていたと思っています。テストで最初から走れていれば違う対策を考える時間もあったかも知れませんが、問題をはっきりと認識したのは開幕の直前だったように見えました。
その推測が当たっていたら、オーストラリアGPと中国GPの開幕2連戦はおそらくあとづけの対策になったと思います。私の経験的に短時間での効果的な振動対策は、ダイナミックダンパー(動吸振器)のあとづけや、つっかえ棒のような部品追加での剛性アップです。
ダイナミックダンパーはゴムと重りで構成された部品で、振動している部分に取りつけ、振動を軽減させるものです。量産車でも使われている技術で、ダイナミックダンパーのような応急処置で症状が収まれば、開発の遅れは数カ月で済みます。
そうした対策によってレースを完走できるようになったのかという視点で第2戦の中国GPに注目していましたが、フェルナンド・アロンソ選手とランス・ストロール選手はともにリタイアに終わります。私の見る限り、あとづけの対策は十分な効果を発揮していなかったように感じました。
日本GP(3月27〜29日)ではさらなるアップデートをするようですが、それでもうまくいかなかったら大幅な改修が必要になります。場合によっては、車体を含めて設計変更をしなければならないかもしれません。そうなった時は大きな痛手になります。普通に考えると、半年や1年といった単位の時間が必要となってくるかもしれません。
なぜアウディやレッドブル・パワートレインズ(RBPT)などの未経験チームでも発生していない振動がアストンマーティン・ホンダだけで出てしまったのか。その原因を各PUパーツの配置や車体への取り付け方が映っている写真などから検証して、根本的な問題を特定する必要があります。この作業の進め方には技術者のセンスが必要で、HRC(ホンダ・レーシング)の開発能力が問われる事態になっていると思います。
内燃機関のパワー不足に関しては、振動対策のあとになるでしょうが、別部隊で同時並行的に推進しておく必要もあるでしょう。
F1は、中東情勢の悪化で日本GPのあとに予定されていた第4戦バーレーンGPと第5戦サウジアラビアGPの中止が発表され、5週間のインターバルが空いくことになりました。ホンダにとってはこれで多少の時間稼ぎができますが、そんな短期間で解決できるような事象がどうかはわかりません。
異常振動の発生はアストンマーティンという1チームだけで起きている事象ですから、他車と比較しながら真相を究明していくことになると思いますが、私は現在のアストンマーティン・ホンダを見ていると、ゼロポッドを投入した時のメルセデスの姿を思い出します。
メルセデスは2022年の開幕から空力性能の向上を目指し、サイドポンツーンを極限までコンパクトにしたゼロポッドも採用しました。他車を出し抜こうとしてトライしたのですが、マシンが上下に激しく揺れるポーパシングに悩まされ、思うような競争力を発揮できませんでした。
結果的にメルセデスがゼロポッドのコンセプトを廃棄するまで約1年半かかりましたが、ホンダには同じ轍を踏んでほしくはありません。アストンマーティンとともに協力し合って少しでも早く問題を解決し、本来あるべきポジションで戦えるようになることを心から願っています。
<プロフィール>
浅木泰昭 あさき・やすあき/1958年、広島県生まれ。1981年に本田技術研究所に入社し、第2期ホンダF1、初代オデッセイ、アコード、N-BOXなどの開発に携わる。2017年から第4期ホンダF1に復帰し、2021年までパワーユニット開発の陣頭指揮を執る。第4期活動の最終年となった2021年シーズン、ホンダは30年ぶりのタイトルを獲得。2023年春、ホンダを定年退職。現在はF1コメンテーターとして活躍。初の著書『危機を乗り越える力 ホンダF1を世界一に導いた技術者のどん底からの挑戦』(集英社インターナショナル)が好評発売中。
著者プロフィール
川原田剛 (かわらだ・つよし)
1991年からF1専門誌で編集者として働き始め、その後フリーランスのライターとして独立。一般誌やスポーツ専門誌にモータースポーツの記事を執筆。現在は『週刊プレイボーイ』で連載「堂本光一 コンマ1秒の恍惚」を担当。スポーツ総合雑誌『webスポルティーバ』をはじめ、さまざまな媒体でスポーツやエンターテイメントの世界で活躍する人物のインタビュー記事を手がけている。
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