今季F1は「近年稀に見る壮大なショー」 中野信治が熱弁するランド・ノリスの特殊能力 (2ページ目)
【メンタルコントロールがカギ】
でも彼らに弱点がまったくないわけではありません。ふたりとも感情の起伏が激しく、メンタルコントロールが完璧とは言えません。その点に関してはノリスのチームメイト、オスカー・ピアストリが上回っていると思います。
元F1ドライバーで現在は解説者などを務める中野信治氏 撮影/村上庄吾
チャンピオンを獲得したあとのフェルスタッペンはメンタル的に非常に成長したと言われてきましたが、彼はこの数年間、ある意味、ライバル不在の平穏な時間を過ごしていた。でも今シーズン、そうじゃなくなった瞬間の乱れ方が半端ないですよね。
ハンガリーGPでは無線でチームの作戦を公然と批判していましたが、フェルスタッペンは、「俺が負けるわけがない。結果が出ないのはお前らが悪いんだろう」と思っているはず。ドライビングに関しても、前からちょっとやりすぎだなと感じる部分がありましたが、やっぱり変わっていません。
前半戦に何度かノリスとの激しいバトルがありましたが、絶対に譲りません。「俺が行けば相手は引くだろう」というような走りでした。言葉は悪いですが、そういう"わがまま"なドライビングは最近見られなかったのですが、やっぱり戻っているなという印象を受けます。
そんなフェルスタッペンを相手にノリスはどう戦うのか。引くのが当たり前になってはダメだと思います。第11戦のオーストリアGPでふたりは激しいバトルを繰り広げ、最終的に両者が接触する結末になりました。オーストリアGPの決勝前まで、フェルスタッペンはギリギリの勝負になったらノリスは引くだろうというイメージを持っていたと思います。
フェルスタッペンにそういう走りをさせ続けていると、ノリスはチャンピオン争いで勝てない。ノリス本人もそう感じていたからこそ、オースリアGPで簡単には引かない姿勢を見せつけたと思います。
オーストリアGP以降、ノリスの戦い方は変わってきました。立ち振る舞いや言動にも明らかな変化を感じます。それまでのノリスはフレンドリーな性格で、レースをすごく楽しんでいるように見えましたが、優勝争いをするようになってからは完全に戦闘モードに入っている印象です。
もともと能力とセンスのあるドライバーが貪欲に結果を求めるようになってきて、どんどんレースに集中しているように見えます。戦闘モードに入ることで、ノリスのキャラクターのよさを若干消してしまうかもしれませんが、フェルスタッペンという強大な王者を倒してチャンピオンをつかみ獲りにいく時には、戦う姿勢が全面に出てくる必要があります。
タイトル争いがさらにヒートアップする後半戦、ノリスが戦闘モードをずっとキープしていけるかどうか。彼はどちらかというと波があるタイプなので、自分自身でメンタルをコントロールする術を見つけられるかどうかが、チャンピオン争いの大きなポイントになるでしょう。
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