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「アイルトン・セナほど人間的な魅力にあふれるドライバーはいない」F1カメラマン・熱田護の心残りは「独占写真のフィルムを盗まれ...」 (3ページ目)

  • 川原田 剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi
  • 熱田 護●撮影 photo by Atsuta Mamoru

【カメラマン人生最大の心残り】

 僕はセナのキャリアの最初から最後までを撮れたわけではありません。わずか3年半くらいしか追いかけることができませんでしたが、モータースポーツのプロカメラマンとしてセナを撮影できた期間は自分の大切な大切な宝物です。

 セナの写真に関して、自分のカメラマン人生で最大の心残りがあります。1993年のイギリスGPの決勝前に思いがけない場面に遭遇し、その瞬間を記録することができました。

 当時は日曜の午前中にウォームアップ走行が設けられており、そのセッション前に僕はピットロードをプラプラと歩いていました。するとマクラーレンのセナのガレージのなかに小さな男の子と女の子がいたんです。

 おそらくセナの親族だと思いますが、子どもがふたりできゃっきゃとはしゃいでいるので、何をしているんだろうなあと見ていました。するとレーシングスーツ姿のセナがやって来て、子どもたちと笑顔で話し始めました。いい雰囲気だなと思ってガレージのなかに入り、シャッターを切りました。

 そしたらセナ自ら、いい写真を撮れるようにいろいろとセッティングしてくれたのです。クルマがきちんと映る場所に移動し、自分のヘルメットを女の子にかぶせて、3人のカメラ目線のカットも撮ることができました。

 ガレージのなかにカメラマンは僕しかいなかったので独占写真です。ファミリーと接する素顔のセナや、子どもを前にした優しい表情を僕だけが撮れたのです。

 ところが撮影したフィルムを当時契約していた出版社の編集者が盗まれてしまい、その作品を世の中に発表できなかった。僕のカメラマン人生で一番残念な出来事です。30年以上も前のことですが、今でも心残りです。

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