キャリア20年のF1エンジニア・小松礼雄に聞く「いいドライバーの条件」過去No. 1は誰?

  • 熱田 護●取材・文 text by Atsuta Mamoru

ハースF1・小松礼雄 インタビュー後編(全2回)

 ハースF1チームで技術部門を統括するエンジニアリングディレクターとして活躍する小松礼雄氏。2003年のB・A・Rホンダからキャリアをスタートさせ、ルノー、ロータスのエンジニアを経て、2016年のチーム結成時にハース入り。インタビュー後編では、フェルナンド・アロンソやキミ・ライコネンらチャンピオン経験者をはじめ、数多くのドライバーと二人三脚で仕事をしてきた小松氏に「いいドライバーの条件」を聞いた。

ハースのエンジニアリングディレクターを務める小松礼雄氏 photo by Atsuta Mamoruハースのエンジニアリングディレクターを務める小松礼雄氏 photo by Atsuta Mamoruこの記事に関連する写真を見る* * *

【100%を出しきる準備の力】

ーーF1ドライバーは速く走るのは当たり前ですが、エンジニアの視点で「いいドライバーの条件」を教えてください。

小松礼雄(以下、小松) F1のレベルまでくると、みんな速いですし、運転が上手なんです。大事になってくるのは、どうやって常に自分のベストの状態をもってくることができるのか、ということ。それは、メンタルとフィジカルの両方において。自分自身をきちんと理解して、能力のすべてを発揮するための準備ができるかどうか。それがプロのドライバーでは非常に重要だと考えます。

 これはすべてのアスリートに言えるかもしれません。たとえば、サッカーの中田英寿選手は「準備の天才」と言われていたようですが、イタリアのセリエAに行く前から現地で活躍するためのトレーニングをして、言葉や文化を勉強していました。そして移籍した途端にイタリア語でしっかりと会見していました。プレーヤーとしての能力はもちろんですが、自分のパフォーマンスを発揮するための準備をする能力が段違いだったと思います。

 F1で7度の世界チャンピオンに輝いたミハエル・シューマッハ選手がそうですね。マシンを速く走らせ、自分のフィジカルのコンディションをキープするのは当たり前。能力を100%発揮するために、彼は他のドライバーが遊んでいる時でもトレーニングをしていました。そのうえで、どうやったらチームのスタッフを仲間に引き込んで、チームをいい方向に導けるのかを考えて行動していた。そのあたりの能力が重要だと思います。

ーーその他にも重要な能力や条件はありますか?

 それは、2023年からハースのドライバーを務めるニコ・ヒュルケンベルグが示してくれています。彼はウイリアムズ、(アストンマーティンの前身チームの)フォース・インディア、ザウバー、ルノーなど、さまざまなチームのマシンを乗っていて経験が豊富ですし、マシンに乗ってすぐにいろいろなことを感じられる。すごくいい感性があるんですね。さらに感じたことをきちんとエンジニアに伝える能力があります。要は、コミュニケーション能力が高いんです。

 このコミュニケーション能力が非常に重要です。いくら天才的に速くても、クルマの状況を的確な言葉でエンジニアに伝える能力がないと開発は前に進んでいきません。

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プロフィール

  • 熱田 護

    熱田 護 (あつた・まもる)

    フォトグラファー。1963年、三重県鈴鹿市生まれ。2輪の世界GPを転戦したのち、1991年よりフリーカメラマンとしてF1の撮影を開始。取材500戦を超える日本を代表するF1カメラマンのひとり。

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