真夏の鈴鹿、かけがえのない特別な8時間。優勝の立役者・長島哲太は「...ごめんなさい、言葉になりません」 (3ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

長島哲太は表彰台で叫んだ

 日曜午前11時30分にスタートした決勝レースでも、Team HRCが圧倒的な強さを見せた。

 スタートライダーは高橋巧。8耐を最もよく知るライダーだけに、安定したハイペースで後続を引き離し、1時間の走行を終えて長島にバイクを委ねた。長島もまったく危なげなく速いペースで差を広げ続け、カワサキのエース、ジョナサン・レイとの距離を22秒に広げてレクオーナにつないだ。レクオーナも初めての8耐とは思えない安定感を発揮し、ひとつのミスもなく自分の担当時間を消化していった。

 Team HRCの3名は最後まで高水準の走りを続け、ファクトリーが総力を結集させてすべてが噛み合った容赦ない強さを見せつけるレースだった。最後の時間を走行した長島が214周を終えてチェッカーフラッグを受け、独走で8年ぶりの優勝を飾った。

 この圧巻の勝利を振り返ると、トップタイムを記録してポールポジションを獲得し、決勝レースでは優勝のチェッカーフラッグを受けた長島は、最大の立役者だ。

 だが、上述のとおり、長島哲太はけっして順風満帆なライダー生活を送ってきたスター選手ではない。むしろ、全日本選手権時代から苦労を重ね、世界グランプリの舞台へ到達したあとも、自分ではどうにもならない環境に何度も翻弄され、HRC開発ライダーのポジションを自力で掴み取った苦労人である。

「(Moto2の)シートを失ってからHRCに拾ってもらい、成長させてもらってここまで来ることができました。本当にありがとうございます!」

 表彰台で叫んだ長島は、

「自分はレーシングライダーなので、走る場所がないことが一番つらい。去年と今年は、HRCと一緒にこの8耐のためにいっぱいテストをして、『ここまでやるのか』というくらい重ねてきた努力が形になりました。それがなによりうれしい。......ごめんなさい、言葉になりません」

 そう言って、少し声を詰まらせた。

 2位はKawasaki Racing Team。3位には、最後までふたりのライダーで戦い抜いたYoshimura SERT Motulが入った。

 今年の8耐は緊迫感に満ちたバトルこそなかったが、終わってみればやはり、かけがえのない特別な8時間になった。来年の鈴鹿8耐は、かつてのように感染対策の必要がない状態で迎えることができるだろうか。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る