ホンダスピリットで「攻めた」F1マシン。失敗作と言われても挑み続ける (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 しかし、勝利には手が届かなかった。

 テクニカルディレクターのジェフ・ウィリスを筆頭とした当時のB・A・Rホンダは、「失敗しないこと」を最優先とした守りの組織になってしまっていた。せっかく速さの片鱗があっても、リスクを背負ってそれを勝てるレベルにまで磨き上げることができなかった。だから、勝利のために極限まで攻めているライバルに勝つことはできなかったのだ。

 フルワークス復帰初年度の2006年は、ハンガリーGPで1勝を挙げた。しかし、これは天候の変動によるところが大きく、マシンもB・A・Rホンダ時代に作りあげられたものでしかなかった。

 しかし2007年に向けたマシン作りでは、シニアテクニカルディレクターに就任した中本修平が組織改革に乗り出す。失敗を恐れる保守的な管理職は解雇し、下っ端の人間でも自由に意見を言える闊達な組織作りを徹底した。

 まさにこれはホンダの「ワイガヤ(※)」精神であり、第1期や第2期に自由な発想で革新を生みだし、時代を席巻した原動力だった。

※ホンダが大切にしてきたコミュニケーション方法。語源となっている「ワイワイガヤガヤ」と集団で議論を重ねることにより、物事の本質に深くアプローチして高い価値やイノベーションを生み出す。

「ホンダは挑戦者ですから、失うものは何もありません。もし仮に今、ランキング最下位になったとしても構わないんです。そうなってしまったら、その原因を分析して来年もっといいクルマを作ればいいんです。でも最初から4、5位狙いだけはするなと。それを何年作っていても、決してトップにはなれませんから」(中本シニアテクニカルディレクター)

 こうして作りあげられたRA107は、徹底的に空力性能を優先し、極めてスリムなノーズにサイドポッド後方が極端に低くコンパクトに落とし込まれ、まさしく今のF1でトレンドとなっている手法を他に先駆けて採り入れていた。

 空力を追究するということは、マシンの姿勢変化に過敏なマシンとなってしまうリスクもはらむ。しかし、その領域まで攻めていかなければ、勝てるマシンはできない。

 RA107はそのリスクを承知のうえで「攻めたマシン」だった。若いエンジニアの意見まで分け隔てなく採り入れ、中低速域でのダウンフォース増大を狙い、ホンダがホンダらしく挑戦した。まさにホンダらしいチャレンジスピリットの体現だった。

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る