【F1】中国GP最終ラップで可夢偉が使った「トリック」とは? (2ページ目)
つまり、可夢偉の加速が鋭かったのではなく、ビアンキの加速が鈍かったのだ。
バックストレートで仕掛けるために、相手の立ち上がり加速を削ぐ。そのために、ひとつ手前のコーナーでその要因を作り出す。可夢偉はそんなトリックを仕掛けていたのだ。
王者セバスチャン・ベッテルにしても全盛期のミハエル・シューマッハにしても、彼らは本能的に相手を打ち負かしていたのではない。優れたドライバーというのは本能だけでなく頭脳も使い、チェスや将棋のように常に二手先、三手先を読んで相手を追い詰めていくのだ。
「あれじゃなかったら、無理やったでしょうね。(ケータハムのマシンは)ストレートが遅すぎて、DRSを使っても追いつけへんかったから(苦笑)」
可夢偉はこのトリックを最終ラップまで温存し、狙い澄まして仕掛けた。ストレートスピードにこれだけの差があると、一度抜いても次のストレートで抜き返されてしまう可能性もあったからだ。そして、相手も一度使われたトリックに、二度も引っかかるようなことはしない。だから可夢偉は最終ラップまで待ったのだ。
だがレース終了後、誤ってチェッカーフラッグが1周早く振られていたことが判明し、56周で行なわれたはずのレースは54周目終了時点でフィニッシュという扱いとなった。可夢偉の最終ラップの妙技は、"幻のオーバーテイク"となってしまったのだ。
その裁定が発表された後、エンジニアたちとのミーティングを終えた可夢偉を再び訪ねると、彼はこちらが拍子抜けするほどあっけらかんと言った。
「いや、僕は全然気にしてませんよ。別にどっちでもいいんです。チームはガッカリしてるけどね(苦笑)」
マルシアとの17位争いなど、今の可夢偉にとってはどうでも良いことだった。
「そこは勝負するとこじゃないから。これが(入賞圏内の)10位争いをしてたんやったら怒鳴り込みに行ってたけど(笑)」
可夢偉はそう言って笑い飛ばした。
自分たちが目指しているのは、今季中にポイント争いができるところまでチームを成長させること。だからマルシアとの戦いに一喜一憂している場合ではないし、今目を向けるべき課題はもっと別のところにある。可夢偉はそう言いたかったのだろう。
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