【F1】中国GP最終ラップで可夢偉が使った「トリック」とは?
巨大なグランドスタンドの最上段から突き出るようにメインストレート上に浮かぶ観覧席。地上9階に匹敵するその高さからは、中国GPが開催される上海サーキットのほぼすべてが見渡せた。
決勝レースが残り数周となり、テレビ画面は上位勢の表彰台争いを映し出している。その遥か後方、モニターには映らない17位争いで、小林可夢偉は前を行くマルシアを必死に追いかけていた。
曲がりくねったインフィールドセクションでは2台の差が一気に詰まるものの、長いバックストレートに入ると前のオレンジ色のマシンがスッと逃げていき、可夢偉のマシンは何車身も離されてしまう。0.3秒差まで追い詰めようとも、この速度差ではオーバーテイクはかなり難しい。上空からサーキットを見下ろしているからこそ、余計にそう感じられた。
為す術なしか。そう思っていた最終ラップに、可夢偉は仕掛けた。
中国GPで完走し、着実に前進している小林可夢偉のケータハム この周だけは、バックストレートを立ち上がってくるケータハムのマシンがマルシアに離されることなくピタリと背後についていく。そして、DRS(Drag Reduction System:ドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム)と相手のスリップストリームを使う可夢偉の方が、勢いがある。わずかにインへ牽制するマルシアのジュール・ビアンキに対し、可夢偉はそれ以上に鋭くインへ切り込んでマシンを並べた。
ヘアピンへのブレーキングでインを取り、可夢偉は見事にビアンキを攻略してみせた。そして残る最終コーナーをクリアし、彼の前でチェッカーフラッグを受けた。それはまさに、息もつかせぬほどの緊迫したバトルだった。
「最後に違うことを仕掛けなあかんなと思ってたんです」
可夢偉はさらりと言った。
どうしてあのラップだけは可夢偉の加速が鋭かったのか。可夢偉はその種明かしをしてくれた。
「バックストレートの2つ手前のコーナー(ターン11)で、インに飛び込んで仕掛ける振りをしたんです。そしたらアイツ(ビアンキ)がインを締めてきたから、僕は普通のラインに戻って、いつも通り(最適なライン取りで)走った。でも向こうはライン取りが苦しくなってるから、バックストレートに入っていく次のコーナー(ターン12~13)で僕の方が有利になったというワケ」
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