【F1】王者ベッテルを唯一苦しめたグロージャンと小松礼雄

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki  桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

「一体、ベッテルのあの速さは何なんですかね......」

 アブダビGPが終わって慌ただしく資材の撤収作業が進むヤスマリーナ・サーキットのピットガレージ裏で、ロータスのエンジニア、小松礼雄(あやお)は呆れたように言った。小松は高校卒業後に単身渡英し、ラフバラ大学で自動車工学を学んだ後、欧州でキャリアを重ねている37歳の日本人エンジニアだ。

 その小松がレースエンジニアを務めるロマン・グロージャンは、4位でレースを終えたが、セバスチャン・ベッテルは2位以下に30秒もの大差を付けて独走で勝利を収めていた。史上最多記録に並ぶ7連勝。シーズン後半戦に入ってからのベッテルは、驚異的な速さと強さを見せ続けている。

ロータスでグロージャンを担当する小松エンジニアロータスでグロージャンを担当する小松エンジニア  ドライバーのレース運営と戦略実行の責任を担うレースエンジニアは、レース中は自分たちだけでなく周囲のライバルたちのラップタイムとタイム差を常にモニター上で確認している。だが、今回ばかりは小松は途中でベッテルのタイム表示をモニターから消したという。

「彼ひとりだけ飛び抜けちゃって、画面上のグラフの幅が足りなくなるから消しちゃいましたよ」

 それはつまり、ベッテルはもう"射程圏外"ということを意味していた。通常は周回遅れになったマシンなど、自分たちの戦略に影響のない遅いマシンをグラフから外していくものだが、この日のベッテルはそのくらい異次元の速さを見せたのだ。僚友マーク・ウェバーでさえ「今日のセブ(ベッテルの愛称)は別カテゴリーのような速さだった」と完敗を認めている。

 そんな異次元の速さを持つシーズン後半戦のベッテルと、優勝争いを繰り広げているのがグロージャンと小松だ。

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