【F1】勝利まであとわずか。日本人エンジニアが語った「ドイツGPの舞台裏」 (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 それでもまだ小松とグロージャンはあきらめたわけではなかった。状況は苦しくなったが、ベッテルを攻略すべく次なる手を打った。

 ベッテルはKERS(運動エネルギー回生システム)にトラブルを抱え、その差は0.5秒にまで詰まっている。だが、グロージャンは最高速が遅いせいで前を行くベッテルを追い抜くことができない。

「オーバーテイクするのはすごく難しいよ!」

 グロージャンの訴えに、小松が動いた。レースがいよいよ終盤へ差し掛かろうかという40周目のことだ。

「OK、ピットインだ」

 先にタイヤ交換をして新しいタイヤを履き、その威力でベッテルをパスしようというわけだ。

 だがそれを見越したベッテルも即座に反応し、翌周にピットイン。グロージャンが新しいタイヤでアドバンテージを築くよりも先に、前を抑えられてしまった。2台のバトルは、再び膠着状態に陥った。

 その背後にやって来たのは、最後にソフトタイヤを履いたグロージャンの同僚、キミ・ライコネンだった。ロータスは3位にいたライコネンにグロージャンとは異なるソフトタイヤを履かせ、レース終盤に猛攻を仕掛ける戦略を採ったのだ。

「ロマン、キミ(ライコネン)を抑え込むな」

 ペースの差を見れば、ライコネンが速いことは明らかで、勝負は決まっていた。小松からの無情の指示に当初は難色を示したグロージャンも、「チームのためにフィニッシュしろということかい?」と聞き返し、そのチームオーダーを受け容れてライコネンを先行させた。

ライコネンはあとわずかの差で勝利に届かなかったものの、ライコネンは「ロマンが前に行かせてくれて助かった。もしそうでなかったら、彼を抜くのにもすごいバトルになってタイムロスしていただろう」と感謝の言葉を述べた。

 パドックでは「ロータスがグロージャンをおとりに使い、ベッテルに早めのピットストップをさせてライコネンに逆転優勝のチャンスをもたらそうとしたのではないか」という穿(うが)った見方さえもあった。しかし、小松は「結果的にそうなったけど、チームとして意図的にやったわけではない」と否定する。

 そして、最後にチームプレイに徹したグロージャンにはチーム内でも高い評価が与えられたという。

 昨シーズンのグロージャンは、度重なるクラッシュで"危険なドライバー"というレッテルを貼られてしまった。さらには、ライコネンというF1界で突出した才能を持つドライバーと比べられてしまう厳しい立場にいる。今季もまだ獲得したポイント数ではライコネンの半分にも満たない。

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る