【F1】勝利まであとわずか。日本人エンジニアが語った「ドイツGPの舞台裏」 (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 6周も先にピットインしたベッテルのタイヤはすでに劣化が進み、グロージャンはベッテルとの差をじわじわと詰めていく。ベッテルのタイヤの性能低下は明らかにロータスより速く、グロージャンの逆転はもはや時間の問題だった。

「ロマン、ベッテルは君よりもかなり古いタイヤを履いているぞ!」

 グロージャンにそう伝えてプッシュさせた小松は、勝利が目の前にあることを感じていた。グロージャンにとっても、小松にとっても、初めてのF1での勝利だ。

「ソフトタイヤであそこまで引っ張れたからギャップを作れたし、それがうまくいって(前走車の前に出たことで)第2スティントもすごく速かった。ベッテルのタイヤの方が古かったから、コース上で抜けるかベッテルの方が先にピットインするか、だったんですよね。もう、普通にいけば勝てるという展開でした」

 グロージャンも予想以上のマシンの手応えに、自分が優勝争いをしていることを実感していた。

「ソフトタイヤを履いたマシンは僕らが思っていた以上に格段に良かったんだ。最初のピットストップを終えて、セブ(ベッテル)と僕だけが他の人たちよりもずいぶん前にいたね。あとは戦略をどうするかだけだった。2回ストップにするか3回ストップにするか、状況を見ながら考えているところだった」

 地元ドイツでの初優勝を期すベッテルと、未勝利のグロージャン。誰もがその一騎打ちになることを予感していた。そして、勢いがあるのは後ろにいるグロージャンの方だった。

 そんな矢先、マルシアの1台がエンジンをブローさせてリタイアし、コース脇に止まった。マーシャルによって車両は排除されて何の支障もなくレースは続行されるはずの、何の変哲もない出来事だったが、坂道に止まったマシンがひとりでに動き出し、コースを横切る事態となってしまった。そのため24周目にセーフティカーがコースに入り、これが大きくレースの流れを左右することになってしまった。

 タイヤが厳しくなり始めていたベッテルは、好機とばかりにすかさずピットインしてタイヤを交換。グロージャンも後続マシンも、これに続いてタイヤ交換を行なうしかなかった。ベッテルにとっては渡りに船、逆にグロージャンにとっては自分のアドバンテージが打ち消される状況になってしまった。

「あれは最悪のタイミングでした。逆に、ベッテルにとっては完璧なタイミングだったんです。(セーフティカー導入がなく)いずれベッテルがピットインしてこっちは前がフリーな状態で走り続けていれば、ギャップはもうちょっと広がっていたでしょう。レースペースは(レッドブルよりも)ウチの方が全然速かったでしょ? クルマの仕上がりとしては、今までで一番勝利に近いところにあったと思います」(小松)

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