ウイニングチケットは「7%の余力」を埋めて悲願達成。日本ダービーというレースの価値を改めて教えてくれた名馬だった (3ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Kyodo News

 それゆえ、伊藤師にも、柴田騎手にも、皐月賞の敗戦によるショックはなかった。あくまでも体調が整わなかったことによる敗戦。伊藤師曰く、皐月賞時のウイニングチケットの出来は「93%くらい」だったという。

 つまり、ダービーまでにはまだ、状態を7%アップさせるだけの余地があったのだ。

 ダービーを勝ちたいジョッキーと、勝たせたい調教師。そして、ダービーを勝つにふさわしい能力を備えた馬。人間ふたりの執念に、"残り7%"調子を上げたウイニングチケットが呼応。それが、あのダービーの半馬身勝ちにつながった。

 結局、ウイニングチケットのGI勝利は、このダービーのみ。同馬自身はどう思っていたかは知る由もないが、のちに多くのファンがそう呼んで、記憶しているように、やはりウイニングチケットは「柴田政人にダービーを勝たせた馬」だったのだろう。

 今年33歳。サラブレッドの寿命は20代半ばくらいと言われることを思えば、ずいぶん長生きしたと思う。安らかに、と祈る。合掌――。

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