【競馬】あの三冠馬が使ったシャドーロールは本当に効果があるのか

  • text by Sportiva

元調教師・秋山雅一が教えるレースの裏側
「走る馬にはワケがある」
連載◆第8回

競走馬の気性の悪さを解消する目的で使用される矯正馬具。主なものは、ブリンカーやチークピーシズなど5種類ある。そのうち今回は、シャドーロールとパシュファイヤーについて、元調教師の秋山雅一氏に解説してもらった。

馬の鼻面に装着するシャドーロール。馬の鼻面に装着するシャドーロール。――前回は、馬の視界の一部を狭めるブリンカーとチークピーシズ(9月26日配信「ブリンカーやチークピーシズが競走馬にもたらす効果とは」)についてうかがいました。今回はまず、三冠馬ナリタブライアン(1993年~1996年に活躍。皐月賞、ダービー、菊花賞の牡馬クラシックすべてを圧勝。「シャドーロールの怪物」と称された)が使用したことで有名になったシャドーロールについて教えてください。

秋山 シャドーロールは、チークピーシズと同じボア生地の矯正馬具で、こちらは馬の鼻先に着用します。用途はブリンカーやチークピーシズと一緒で、馬の視界を制限するためのものですが、シャドーロールは横や後方ではなく、馬の足もとの視野を狭めることがいちばんの目的。自分の足もとの影を見て驚いてしまう馬が稀(まれ)にいて、そういう馬たちに着用します。他にも、特にダート戦で、前方から飛んでくる砂が目に当たるのを防ぐ、という効果が少しだけあります。

 あと、シャドーロールを着けて足もとが見えなくなると、逆に足もとを見てやろうとして、頭を下げる馬がたまにいるんですよ。それを逆利用して、頭の高い馬に対して、頭を下げさせるために使うことがありますね。ただし、そうした使い方については、否定的な意見もあります。というのも、頭を高くして走るのは、骨格や筋肉のつき方による、競走馬の構造的な問題だからです。要は、一般的に頭を低くしながら前方に伸ばして走るのがいいフォームとされていますが、頭が高い馬にとっては、頭を高くして走るフォームこそが最も走りやすいわけです。そのため、「無理やり頭を下げて走らせることが本当にいいことなのか?」と、疑問に思っている関係者は少なくありません。

――調教師や騎手の方々が「あの馬は頭が高いから」というコメントをしているのをよく見るので、頭を高くして走る馬はダメなのかと思っていましたが、そうとも限らないわけですね。

秋山 人間だって、例えばオリンピックの100m走を見ても、選手によって走り方はまったく違うじゃないですか。それと同じで、馬も頭を低くして走ったほうがいい馬もいれば、頭を高くして走ったほうがいい馬もいるわけですよ。つまり、シャドーロールにしろ、ネックストレッチ(馬の頭からハミの両側を通して腹帯に装着するもの)や、折り返し手綱(腹帯からハミ環を通した特殊な手綱)、マルタンガール(腹帯に取り付ける革ひもの道具)といった、頭を下げさせるための補助器具を使って馬の走りを矯正するのは、必ずしもいいことではないということです。実際、競走馬の持って生まれた走り方を重視して、無理な矯正をしない調教師が最近は増えています。

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