【ゴルフ】菅沼菜々を復活優勝に導いた森守洋「スウィングを型にはめるのはすごく危険」 (2ページ目)
ただ、レイドオフにしたことで、ダウンスウィングでクラブが下から入ってくるようになり、インパクトのフェースの戻しのタイミングを失ってしまって、ショットが不安定になっていました。それで僕のところに来たのですが、彼女のスウィングを見た時に、(修正するのは)わりとイージーだなと思いましたね。実際、すぐにクラブの動きがよくなりました。よくなったというか、やったことは以前のようなクラブの動きに戻したということです。
トップでクロスになっていても、ダウンスウィングでちゃんとクラブを真っすぐ引っ張れているので、インパクトエリアでのクラブの動きはほぼ完ぺきだった。だから、ここで言いたいのは、基本的にはゴルフスウィングを型にはめるのはすごく危険だということです。クロスはダメ、アマチュアの元凶はトップのクロスです、みたいなことがよく言われますよね。でも、こんなに振れているのにクロスを変えさせるのか、気持ちよく振れているんだからクラブが動いていればいいんだよ、っていうのが僕の考えの根底にはあります」
いまだ無駄のない、見た目に美しいスウィングを追求する傾向が多いレッスン界だが、そんななかでも森コーチが形にこだわることはないと言いきれるのには、こんな背景があった。
「僕の教えている選手たちは個性的なスウィングの選手が多くて、たとえば堀琴音(ツアー通算3勝)なんかは、最初に腕の上昇が入ってクラブが外に上がり、その後に体の回転が入ってくる。バックスウィングの動きを静止画で抜き取ってみると"変な動き"に見えるかもしれないけど、トップからの切り返し以降は、クラブを引っ張って使えていて、良いタイミングでリリースができているから、リズムが美しくて、インパクトエリアもきれいに整っている。それで、今年はずっとフェアウェイキープ率が1位(※10月9日現在)ですからね。今の時代は弾道分析機器によってインパクトエリアの動きが見えるんだから、そこがよい動きをしていたら、スウィングに癖があっていいんだよ、っていう話なんです」
今年5月に、およそ1年6カ月半ぶりに優勝した菅沼菜々は、優勝インタビューで「昨年は苦しくて、こんなに早く復活できるとは信じられない。また優勝できて本当にうれしいです」とコメントした。世代交代が激しい今の女子プロゴルフ界では、停滞が長引くと再浮上が難しくなってくる。その意味でも、森コーチの「トップを以前のクロスに戻そう」という選択は正しかったということだ。しかし常道は、将来のことも考えてそのままレイドオフの習得を続けるほうで、ロスの少ない安定性の高いスウィング作りを目指す選択で、「前向き」のニュアンスも含まれるこちらを多くのコーチは選ぶだろう。
だが、「楽観的思考」の森は「後戻り」の方を選んだ。もちろん、そのほうが復活が早いという技術的な目論見もあっただろう。しかしそれは、弾道測定器が示すデータと堀琴音という前例を基にした確信が持てる方法であり、楽観的思考の奇才・森守洋だから出来た選択だったのかもしれない。
(つづく)
Profile
森守洋(もり・もりひろ)
1977年2月27日生まれ、静岡県出身。高校時代にゴルフを始め、95年に渡米しサンディエゴにて4年間ゴルフを学ぶ。帰国後、陳清波プロと出会い、陳先生のゴルフに感銘を受ける。2002年よりレッスン活動を開始し、現在は複数のツアープロのコーチも務める。
女子ゴルフツアーで躍動する選手たち
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