【ワールドカップ】イングランドを前に相手は最後に息切れする プレミアリーグの競争を勝ち抜いた戦士たちの強さ (3ページ目)
【相手は最後に疲弊する】
ハリー・ケインのような大スターがいても、ケインに依存する戦い方はしていない。
炭鉱と港湾がサッカーどころという背景から、特権階級を認めず皆で苦楽を共にする精神性が宿っている。1970~80年代に欧州を席巻したリバプールの、区画整理したような4-4-2は象徴的で、全員が割り当てられたエリアでの攻守を平等に担当した。英国人監督によって北欧に定着したのが、このころのイングランド方式である。
ただし、1970年代のイングランドはまだ荒々しさが残っていた。それがすっかり洗練されたのが1998年前後。整然とした平等主義は残ったものの、イングランドの核だった野性味は失われていた。まるで牙を抜かれたよう。形を輸入した北欧と見分けがつかないくらいになっていった。
しかし、あえて言えば「北欧化」したイングランドは、安定した強さを発揮するようになった。
区分けされたプレーエリアはそれぞれのスペシャリストを輩出。プレミアリーグの競争を勝ち抜いた戦士たちの能力は高く、もともと持っていた質実剛健のメンタルが静かなゲームの根底に流れている。派手さはない。だが、静かなイングランドと対峙する相手は、教科書どおりの攻守につき合うなかで疲弊してしまうのだ。
素早いパスワークでテンポを上げ、距離感と感覚の違う相手だったメキシコ戦は大苦戦だった。試合間隔の短さ、高地のアステカスタジアムという条件も厳しかった。かつてのイングランドだったら、10人で延長まで戦い抜くスタミナは残っていなかっただろう。
しかし今は逆なのだ。淡々と、粛々としたイングランドは、最後まで息切れを起こさない。削られていくのは相手であって、自分たちではない。
紆余曲折の末、弱点を克服して強さに変えた。もともとの強みと弱みを混ぜ合わせて作り上げた新しい伝統。勝利の歌のなかにある「ワンダーウォール」を手中にしたのかもしれない。
著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。
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