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遠藤航はどうやって「構想外」から脱したのか サポーターがこんなにも熱く支持するには理由がある (2ページ目)

  • 粕谷秀樹●取材・文 text by Kasuya Hideki

【スロット監督も認めざるを得なかった】

 こうした状況に追い込まれると、人間は動揺する。試合に出てナンボのプロアスリートならなおさらで、移籍をアピールしたくなる。エージェントが懇意のジャーナリストに連絡をとり、「移籍志願」のシナリオを作りはじめる。その結果、クラブと同僚、サポーターの心証が悪化するパターンは、何度も、何度も繰り返されてきた。

 ところが、遠藤は妬(ねた)み、嫉(そね)みをいっさい口にしなかった。黙々とトレーニングに打ち込み、ほんのわずかな出場時間でも好結果を出す。キャプテンのフィルジル・ファン・ダイクにも意見するなど、その姿勢は妥協を許さない。リバプール内で一目置かれていた遠藤の評価がさらに上がったのは、言うまでもない。

 ある時はスピードスターのドリブルをあっさり止め、またある時は身長で20cm近く上まわるストロングヘッダーとの空中戦に競り勝つ。しかも、ごく限られた時間内で......。

 遠藤がピッチに立てば、特にディフェンスが安定するのだから、スロット監督がプライオリティ(優先順位)を見直したのは当然だ。

 遠藤が「クローザー」として輝きはじめた。クラブの公式ホームページも「地球の71パーセントは水に覆われ、残りはワタがカバーしている」と絶賛する。

 あれほど否定的だったメディアまでが「LEGENDO(LEGENDとENDOをかけ合わせた造語)」とか「WARRIOR(戦士)」ともてはやす。筆者が当コラムで提案した「遠藤ロール」は日本ですら認知されていない。配信番組では「エンドロール」(映画やテレビなどの最後に流れる出演者、スタッフの名前)、要するに彼が出てくれば試合は終わりを意味すると自分のワードセンスに胸を張ったが、誰も聞いていなかったかのように反応が薄い。

 いや、筆者の言葉選びなど滑稽だ。遠藤は策を弄さず、ただひたすら真正面から厳しい現実に対峙し、リバプールのスカッドに戻ってきた。

 昨年12月のカラバオカップ(リーグカップ・サウサンプトン戦)では、アームバンドを巻いた。若手中心のメンバー構成だったとはいえ、名門リバプールのキャプテンが務まるのは、選ばれし男だけである。

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