チャンピオンズリーグで神セーブ連発のアリソンを見たか リバプールのパーフェクトGKはバロンドール候補
西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第39回 アリソン・ベッカー
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。
今回は、リバプールとブラジル代表の守護神、GKのアリソンを紹介。チャンピオンズリーグのパリ・サンジェルマン戦での神セーブ連発が話題になりました。
リバプールのアリソン。なんでもできる完璧なGKだ photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る
【人生で一番のゲームかもしれない】
GKがバロンドールを受賞したのは1回しかない。1963年のレフ・ヤシンだけ。当時、ディナモ・モスクワに所属。「黒蜘蛛」というニックネームが有名なのは黒いシャツを身に着けていたからだが、ゴールネットを背にして獲物(ボール)を待つ姿が蜘蛛に見えたのかもしれない。シュートストップの反射神経は驚異的で、ディフェンスラインをカバーしてペナルティエリアを飛び出すプレーも見せていたという。
1973年にはディノ・ゾフ(ユベントス)が2位だった。こちらは「ゴールに鍵をかけた男」。イタリアのカテナチオを象徴するGKだった。2001年はオリバー・カーンが3位。2006年はジャンルイジ・ブッフォンが2位。2014年はマヌエル・ノイアーが3位だった。2006年のブッフォンは惜しかったと思う。イタリアのドイツW杯優勝の立役者のひとりだが、受賞したのはチームメートのファビオ・カンナバーロだった。
史上ふたり目のバロンドールを受賞するGKは現れるのだろうか。もし、実現するならば候補の筆頭はおそらくアリソン・ベッカーだろう。
チャンピオンズリーグ・ラウンド16の第1戦、パリ・サンジェルマンのホームに乗り込んだリバプールは1-0で先勝した。しかし、このスコアからは信じられないくらいリバプールはピンチの連続。アリソンは8本のシュートを防いでいるが、ほとんどは決定機だった。
ホームのパリSGは立ち上がりからボールを支配。リバプールはプレスをことごとく外され、後退を余儀なくされている。リバプールは得意のカウンターアタックも封じられ、前半のシュートは10対0。パリSGのウスマン・デンベレ、フビチャ・クバラツヘリア、ブラッドリー・バルコラの3トップは、ポジションを入れ替えながら個人技でリバプール守備陣を圧倒。20分にはクバラツヘリアが見事なシュートを決めるが数センチのオフサイドでノーゴールとなる。
30分、至近距離からのデンベレ、バルコラの連続シュートをGKアリソンが防ぐ。確かにこの時点でアリソンは神がかっていたが、パリSGのワンサイドゲームを無失点で終えられるとはとても思えなかったものだ。
「おそらく人生で一番のゲームかもしれない」(アリソン)
後半もアリソンはパリSGのシュートを止めまくり、リバプールは87分にハーベイ・エリオットがワンチャンスをゲットして勝利。決勝点は交代出場のエリオットだが、この試合の武功第一は紛れもなくアリソンである。
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著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。