チャンピオンズリーグで輝く優勝請負人フリアン・アルバレス ハードワークする天才のすごさ (3ページ目)
【ハードワークする天才】
後半からレバークーゼンが少し調子を落としていた。10人のアトレティコを相手に攻め込んではいたのだが、距離感が微妙に遠くなっていてミスが増えていた。
リードされていたアトレティコは10人でも当然攻める。するとレバークーゼンはいったん引かざるを得なくなり、そこからまた攻め直すのだが、このボールが大きく動く展開でアトレティコの運動量と意欲がレバークーゼンの距離感を狂わせていた。
そうこうしているうちにアルバレスが同点、さらに76分にインカピエ退場で10人対10人に。1点ビハインドでも諦めず、粘り続けた末、ついにすべてが五分の状況に持っていったわけだ。
90分の決勝点は運もよかった。スローインをボレーで縦へフィードしたが、レバークーゼンにいったんクリアされる。しかし、そのボールをレバークーゼンの選手がコントロールしきれずにこぼれ、拾ったアンヘル・コレアからアルバレスへつないでゴール。
この時もアルバレスはレバークーゼンのDFの誰も見えていない背中側を走り抜けている。きれいに崩した得点ではないが、とっさのこぼれ球への反応の速さ、GKをかわして決めた冷静さが光る。
アルバレスは、例えばメッシのように誰が見てもスーパーな存在というわけではない。どちらかと言えば黒子的な、スーパースターの補佐役としてうってつけのタイプだろう。守備を肩代わりし、走ってスペースを生み出し、決定機に顔を出す、スーパースターを輝かせるパートナーに見える。ところが、結果的に主役を演じているのはアルバレスになっていることが多いのだ。
チームを支える献身性と試合を決める得点力。過程と結果の両面で特別な能力を持っている。アルゼンチンはディエゴ・マラドーナ、リオネル・メッシという世紀の天才を輩出してきたが、アルバレスはメッシ、マラドーナ以前のアルフレッド・ディ・ステファノの系譜と言える。
「ハードワークする天才」という、あまりいないカテゴリー。彼がタイトルを獲り続けているのは偶然ではなく、今後もそれが続く可能性はありそうだ。
著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。
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