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「自由人」ウスマン・デンベレの正しい活用法 ウイングから中央へ移動し自在にチャンスを創出 (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【マニュアル化のなかの自由人】

 デンベレは、レンヌ、ドルトムント、バルセロナを経てPSGに加入したのが昨季。ネイマールの退団後には背番号10をつけている。完全な両足利き。スピードと瞬発力、パワフルなシュート、クロスボールでチャンスを作る。

 その才能は10代のころから別格だったが、いまひとつプロ意識に欠ける言動もあり、27歳の現在もどこか全幅の信頼を置けないタイプでもある。実際、これまで遅刻で支払った罰金の総計は大変な金額にのぼるようで、遅刻の理由もゲームで夜更かしなど大人になりきれていない印象。好不調の波も大きかった。

 ただ、PSGではプレーヤーとしての自由気ままが、いいほうに発揮されはじめている。プラスワンのアタッカーとして自由に動いてあらゆる場所に現れ、無双のドリブルとアイデアのあるパスで自在にチャンスを創出している。

 ひとりで局面を変えられる能力はもともと特大。自由にやるタイプが、自由にならざるをえない起用法によって、これまでの縛られている感じがなくなった。縛りのないデンベレは何だか生き生きとしている。

 浮遊する、不規則に動くウイング。1960年代の「グランデ・インテル」と呼ばれ黄金時代を築いたインテルのマリオ・コルソがこれの原型と言える。

 左利きの左ウイングだが、どこにでも移動した。抜群のテクニックと左足のパワフルで正確なキック、ゲームを作れてラストパスも出せて点もとれる。その万能性のせいか、定位置の左サイドにとどまることなくフィールド上を浮遊した。エレニオ・エレーラ監督が率いた当時のチームでは、例外的に規則性が全く感じられない自由人だった。

 マニュアル化された現代サッカーでデンベレのようなタイプが許容されはじめたのも面白い現象だが、規律の権化として有名なエレーラ監督下にディシプリン皆無のマリオ・コルソが存在し輝いていたのも奇妙だった。

 緻密に設計された戦術ゆえに、そこからはみ出てしまったのか。それとも自由人の正しい活用法か。いずれにしてもデジタル化されたフィールドに野生が放たれている光景は、奇妙であるとともに壮観でもある。

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著者プロフィール

  • 西部謙司

    西部謙司 (にしべ・けんじ)

    1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。

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