「自由人」ウスマン・デンベレの正しい活用法 ウイングから中央へ移動し自在にチャンスを創出
西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第21回 ウスマン・デンベレ
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。今回は、パリ・サンジェルマンのウスマン・デンベレ。10代の時から別格の才能を見せてきたウイングも、現在27歳。ここにきてついに自由自在なプレーがうまく生かされているそうです。
今季のパリ・サンジェルマンで活躍を見せているウスマン・デンベレ photo by Getty Images
【ウイングから中央へ移動】
ウイングプレーヤーが中央へ移動してトップ下としてプレーする。この「偽ウイング」はバルセロナにおけるロナウジーニョやリオネル・メッシの前例もあり、それほど珍しいわけではない。
ロナウジーニョとメッシは、もともとトップ下に適性のあるタイプだった。スタートポジションがウイングなだけで、彼らは中央へ移動し、外側はサイドバック(SB)が幅をとった。
今季の「偽ウイング」も機能性は同じなのだが、もともと純粋なウイングプレーヤーと思われていた選手がトップ下化するところが微妙な違いである。バルセロナのラフィーニャは左ウイングから中央へ入り、「第二トップ下」として新境地を拓いた。
パリ・サンジェルマン(PSG)でこの役割を果たしているのが、ウスマン・デンベレだ。
スタートポジションは右ウイングだが、デンベレはあまりそこにはいない。右サイドに張ってウイングとして振る舞うのは右SBのアクラフ・ハキミである。
今季のPSGは、いくつかの特徴的な戦術と選手起用が行なわれている。
まず、ビルドアップ時の3バック化。守備では4バックだが、前記のとおり攻撃ではハキミがポジションを上げて右ウイングとなるため、ビルドアップは残りの3人が最終ラインを形成している。
これは現在多くのチームで見られる現象で、ビルドアップでは3枚回しが安定するという実感を得ているからではないかと思われる。同時に、攻撃力のあるSBを前進させる人材の活かし方でもある。
ユベントスはアンドレア・カンビアーゾが左右どちらでも「偽SB」として攻撃に加わっていて、チェルシーのマロ・ギュストも同様。もともと攻撃力に定評のあるリバプールのトレント・アレクサンダー・アーノルド、バルセロナのアレックス・バルデ、マンチェスター・シティのリコ・ルイス、PSGのライバルであるマルセイユもミゲル・ムリージョを上げる形で4バックから3バックに変化する。
ただし、SBが上がるサイドにいるウイングが必ずしも第二のトップ下になるわけではなく、もともと突破力に優れたウイングがいるならそのまま外へ張らせて、SBは中へ入ってMF化する。ユベントス、チェルシー、リバプールはその形をとっている。
本格派ウイングのラフィーニャとデンベレを中央へ移動させているバルセロナ、PSGはやや特殊なケースかもしれない。
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著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。