現役引退 イニエスタにとってサッカーとは?「ボールを蹴っていれば自分がリセットされていく」 (3ページ目)
古橋はもともとスプリント力が際立っていたが、高いレベルでプレーする経験が乏しく、荒削りだった。それがイニエスタからパスを受け取ることで、最上のタイミングを体に染み込ませた。エトー、ダビド・ビジャ、フェルナンド・トーレスといった名だたるストライカーから「最高のパサー」と言われたイニエスタからのレッスンは極上だった。
「日常で煩わしいことがあっても、ピッチに出てみんなとボールを蹴っていれば、段々と自分がリセットされていくんだ」
かつてイニエスタは、そう語っていた。本当に、彼はサッカーの神の化身だったのかもしれない。
「サッカーはすばらしいギフトだよ。贈り物に対しては、何かを返さなければならない。その使命感はあるけど、緊張はしないよ。なぜなら、多くの試合を積み重ねてきて、自分がわくわくしていなければいいプレーはできないと確信しているから。僕はピッチで自分を解き放つだけ。自分はどこまで行っても自分でしかないから」
その彼がスパイクを脱ぐ。ひとつの時代の終焉である。しかし、彼が遺したものは何らかの形で受け継がれるだろう。
「ドン」
イニエスタに与えられた敬称である。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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