現役引退 イニエスタにとってサッカーとは?「ボールを蹴っていれば自分がリセットされていく」 (2ページ目)
【17歳のイニエスタは語った】
それは運命だったのだろう。15歳の時点で、そのプレーセンスは傑出していた。
「俺はおまえに引退させられる。しかし、おまえはアンドレスにいつか引導を渡される。アンドレスは王になる選手だ」
ジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)が、同じポジションで台頭しつつあったシャビ・エルナンデスに対し、そう言ってイニエスタの才能を称賛したのは有名な逸話である。
実は筆者も、イニエスタが17歳だった当時のプレーに、雷に打たれたような衝撃を受けたことを覚えている。
バルサBでプレーしていたイニエスタは、一つひとつのプレーがゴールにつながっていた。いや、一挙手一投足がゴールへ向かって行なわれているようだった。それはフットボールという宇宙と曼荼羅(まんだら)のようにつながったような錯覚を受け、「彼こそフットボールそのもの」と感動した。そして浮かれたようにロッカールームまで行って、「話を聞かせてくれ」と懇願していた。
今のセキュリティだったら、大問題になっているだろう。当時のイニエスタは、シャワーを浴びる選手もいる横で「そんな風に思ってくれたのなら......」と、話をしてくれた。それも彼の人間性だったか。
その後の彼は、どこか神の域に入ったプレーを見せた。同じようなことを感じたのが、バルサ時代の盟友であるFWサミュエル・エトーだ。
「伝説となっているチェルシーとの(2008-09シーズン)チャンピオンズリーグ準決勝だった。終了間際、アンドレスは華麗に決勝ゴールを決めている。あのとき、俺はボールの声を聞いたんだ。アンドレスが蹴ったボールが喜びを上げていたのさ」
エトーはゴールを確信し、ボールがネットに入るのも見ずに祝福に走ったという。
「アンドレスと一緒にプレーすることで、誰もがサッカーがうまくなる」
それはひとつの真理である。だからこそ、彼が所属するチームはタイトルの栄光にも浴した。
たとえば神戸で、最もイニエスタの影響を受けたのは、2018年から3シーズン半をともに過ごしたFW古橋亨梧(セルティック)だろう。
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