エムバペ加入の「シン・レアル・マドリード」手綱を握るのは「新8番」バルベルデ
西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第14回 フェデリコ・バルベルデ
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。今回は名将カルロ・アンチェロッティ監督のもと、今季のレアル・マドリードのキーマンになるであろう、フェデリコ・バルベルデを取り上げます。
レアル・マドリードのバルベルデ。今季、クロースの背番号8を受け継いだ photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る
【レアル・マドリードの新しい8番】
レアル・マドリードはよく「戦術がない」と言われる。
戦術が、あらかじめ決められた約束事だとすれば、確かにレアル・マドリードには戦術がないのかもしれない。あらかじめの決め事を作るのは主に監督の仕事であり、それが機能するとフィールド上に何らかの規則性が表れる。ところがレアル・マドリードの場合、そうした規則性は伝統的に希薄なのだ。
ないわけではない。というより、ここ数年は確実に規則性があった。ただ、そのあり方が多くのチームとは違っていた。簡単に言うと、レアル・マドリードにあった規則性はルカ・モドリッチとトニ・クロース(昨季引退)が作ったものだ。
右にモドリッチ、左にクロース。ふたりが散開することでビルドアップが始まっていた。モドリッチとクロースは似て非なるMFで、ふたりの奏でるリズムは異なっていたが、ふたりがあえて距離をとってプレーすることでふたつの音色が混在することはなく、互いに共鳴してトータルで非常にバランスのとれた状態になっていた。
これは監督やコーチングスタッフがあらかじめ用意できるものではない。
そもそもあらかじめ用意して選手たちに仕込む戦術がすくいとれるものは、広大なフィールドで起こることのごく一部でしかなく、その瞬間にいかにプレーするかの大半は選手に委ねられている。レアル・マドリードはその厳然たる現実から目を背けたことはなく、1950年代から今日に至るまで可能なかぎり最高の選手を集めることを大方針にしてきた。
つまり、選手が先なのだ。それぞれの時代で最高クラスのスター選手を獲得し、その人を中心に戦い方を決めていく。監督があらかじめ決めたことをやり、不足しているコマを補強していくというような、多くのチームがやっていることとは違っていて、そのため戦術の定義が一般とは違っている。
偉大な選手ほど替えは効かない。レアル・マドリードの戦術は常に選手とともにあり、したがって選手とともに失われる。アルフレッド・ディ・ステファノ(1950~60年代に活躍)の後釜は存在せず、ジネディーヌ・ジダン(2000年代に活躍)の役割を果たせる者もいなかった。今季はクロースという「戦術」を欠損した状態でスタートしている。
クロースの背番号8を受け継いだのはフェデリコ・バルベルデだった。
ただし、26歳のウルグアイ人はクロース2世ではない。バルベルデはバルベルデのやり方で新しい8番になるしかなく、違う資質、個性で新たなレアル・マドリードを作り上げていくことになる。
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著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。