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エムバペ加入の「シン・レアル・マドリード」手綱を握るのは「新8番」バルベルデ (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【名シェフ・アンチェロッティ監督のキーマン】

 レアル・マドリードの監督に求められるのは、獲得してきたスーパースターを活かしきること。そのためのバランスを構築することだ。

 カルロ・アンチェロッティ監督は素材を的確に料理するスペシャリストで、つまりレアル・マドリードの監督に最適の人物である。

 昨季はジュード・ベリンガムを得て、ベリンガムをトップ下に据えた4-4-2をごく短期間で仕上げた。カリム・ベンゼマ(現アル・イデハド)という「戦術」に代わって、ベリンガムが「戦術」である。戦術ベリンガムはファンにはわかりにくかったかもしれないが、おそらく監督にとってはそこまで骨の折れる作業ではなかったと思われる。

 例えば、クリスティアーノ・ロナウド(現アル・ナスル)が「戦術」だった時代(2010年代)、エースストライカーが左ウイングなので、センターフォワードのベンゼマはアシスト役に回っていた。ガレス・ベイル(昨年引退)が加入して"BBC"が結成されると、さらに脇役が必要となり、アンチェロッティ監督はアンヘル・ディ・マリア(現ベンフィカ)をその任に就かせていた。

 複数のスターが全員第一バイオリンというわけにはいかない。スターのなかにも序列を作り、チーム全体でバランスがとれるようにしなければならない。アンチェロッティ監督は自身が現役の時にローマのスターから、ミランの名脇役に転身した経験がある。そのためか脇役を見つける眼力は確かで、最終的には最適なバランスを探り当てる。

 ただ、レアル・マドリードの会長にとって脇役は脇役にすぎなかったようで、「絶対出すな」と監督が言い残していたにもかかわらず、あっさりとディ・マリアは放出されてしまった。

 それに比べると、戦術ベリンガムはハンドリングしやすかったはずだ。

 ベリンガムは脇役を必要としないハードワーカーで、バルベルデ、エドゥアルド・カマビンガも同類のスターだったからだ。ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴも守備を怠けるタイプではなかった。

 誰かが誰かの尻ぬぐいをするのではなく、全員が互いを補完できる。誰もが自由に攻撃し、誰もが献身的に補完する。アンチェロッティ監督の仕事は、その自由度を保証しながら混乱しないためのルールを作ること。これまでよりストレスは少なかったのではないか。

 しかし、レアル・マドリードはやはりレアル・マドリード。クロースが抜けた今季、やって来たのは念願のキリアン・エムバペだ。とびきりのスター。火力倍増が期待できる。その半面、司令塔クロースを失ったまま、新たなバランスを探る難題が課せられたわけだ。

 今のところ、アンチェロッティ監督の救世主はバルベルデである。

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