ユーロ2024ドイツ対スペイン 勝敗のカギは両軍の左右のバランスと大一番に臨む立ち位置 (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【チームのバランスはスペインが上】

 そのスペイン人ファンが、今回のドイツ戦の舞台となるシュツットガルトにどれほど訪れるかわからないが、彼らにとってはいわゆる完全アウェーである。これこそが一番のネガティブな要素になる。だが、冒頭で述べたようにドイツがこのメリットを生かしきれない可能性もある。36歳のユリアン・ナーゲルスマン監督が、"絶対に負けられない戦い"だと構えることになったとしても不思議はない。

 ドイツはカタールW杯に続き、昨年もホーム(ヴォルフスブルク)で日本に敗れている。直後に監督が交代したとはいえ、右肩上がりにあるとは言えないだろう。2014年W杯のチームにあった世界の先端を行く気品や気概が失われている。当時のドイツのサッカーには右サイドバック(SB)のフィリップ・ラームを兼MFとして使うなど、現代にも大きな影響を与えている先進的な香りがした。

 選手の質は確かに上がっているが、サッカーがいまひとつ画期的に見えない。現在のヨシュア・キミッヒに、当時のラームのような雰囲気はない。最も魅力的に見えるジャマル・ムシアラのプレーにさえ、非効率性が見え隠れする。

ムシアラはドイツきってのテクニシャンである。タイプ的にはいわゆる攻撃的MFだ。その選手が左ウイングとして構える。アンドレス・イニエスタやダビド・シルバ、セスク・ファブレガスなど、ウイングに適性がない選手をそこで起用せざるを得なかったかつてのスペインを想起させるのだ。

 その結果、ドイツは相手の最深部がえぐれずにいる。得点の近道と言われるマイナスの折り返しが、特に左からさっぱり期待できない状態にある。ムシアラは1トップ下で構えるイルカイ・ギュンドアンと重なるため、マイボール時のみならず、相手ボールに転じた際にも悪影響は及ぶ。ボールを奪われた瞬間、ムシアラがいることが少ない左サイドは穴になる。

 今回のスペインにはその手の問題がない。"中盤サッカー"から完璧に脱却できている。ニコ・ウィリアムズ(左)、ラミン・ヤマル(右)という両ウイングの出現が、スペインが抱えていた問題をすべて雲散霧消させた。両ウイングが光れば、中盤の3人も光る。相乗効果を生んでいる。そしてこの関係を左右のSB(マルク・ククレジャとダニエル・カルバハル)が補強する。ドイツの両SBより、スペインの両SBのほうが今日的。つまり、左右のバランスはドイツより格段にいい。

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