バルサはなぜ朝令暮改を繰り返すのか シャビ監督解任の顛末を歴史からひもとく (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

【ロジックよりフィーリングが先行】

 ロレンソ・セラ・フェレール、カルロス・レシャックの両監督時代は、2シーズン連続で4位と振るわなかった。再任となったルイス・ファン・ハールは傲岸さが嫌悪され、降格ラインまで順位を下げた。ひらめきに優れたフアン・ロマン・リケルメとシステム主義者のファン・ハールは水と油だった。退任したシーズンは途中からラドミール・アンティッチが率い、6位でフィニッシュした。

 当時のカンプ・ノウには、怒りと哀しみが渦巻いていた。しかし、不思議なことに、エモーション全体のエネルギー量は低下していなかった。ファンは理性のない戦いに呆れかえりながら、復活を信じていた。そしてフランク・ライカールトという指揮官がやって来て、ロナウジーニョという天才と遭遇し、リオネル・メッシという怪物を生み出した時、喜びと楽しさを爆発させたのだ。

 その流れを、クライフの直系とも言えるグアルディオラが受け継いでいる。下部組織ラ・マシア出身のビクトル・バルデス、カルレス・プジョル、シャビ、アンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケツ、そしてメッシなどが一斉に躍動。最強時代の到来だった。

 バルサはいつだって膨大な感情の渦のなかにあり、フィーリングで行くべき道を決めてきた。大失敗、大成功はあるが、土台は変わらない。論理では解析できない存在で、その不完全さ故に彼らは愛されるのだ。

 現在のバルサには、リオネル・メッシの亡霊が見える。メッシがいた時代は、幸福感に包まれすぎていた。当時の歓喜を求めてしまい、戻れないとわかっていても、引力が生じる。その感情の揺れが、彼らの世界を歪ませている。

 今回のフリック招聘を強く推し進めたのは、新たにスポーツディレクターになったデコだと言われる。彼自身、バルサでライカールト監督のもと、実績を残したOBだ。だが、"しがらみ"を断ち切って、バルサと縁もゆかりもないフリックに手綱を任せようとしているのかもしれない。

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