久保建英の快勝劇に古巣の地元スペイン人記者が驚き「日に日にメッシを彷彿とさせる存在に」
久保建英がレアル・ソシエダの3ゴールすべてに関わり、古巣のビジャレアルに快勝。今回はビジャレアルの地元紙『エル・ペリオディコ・メディテラネオ』の記者を30年間務め、現在フリーのジャーナリストとして活躍するホセ・ルイス・リサラガ氏に、現在の久保がビジャレアル在籍時からどのように変わったかを分析してもらった。
【まだ十分ではなかったビジャレアル時代】
タケ(久保建英)は大きく成長した。彼は常に特別な才能を発揮してきたが、どんなに聡明な学生であっても、成長の段階を踏む必要がある。"アノエタ大学"(※ホームのレアレ・アレーナはネーミングライツ。本来の名称はエスタディオ・アノエタ)で優秀な成績を収め、現在"博士"としての道を歩み始めている。
久保建英は古巣のビジャレアル戦で成長した姿を見せた photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIAこの記事に関連する写真を見る 日本はサッカーと言えばヨーロッパに目を向けるが、ビジャレアル時代のタケには欧州でスター選手になるというプレッシャーが絶えず付き纏い、重荷となっていたと私は思っている。
バルセロナを抑えて18歳のタケを獲得したレアル・マドリードは、彼をフットボール面だけではなく、日本のスポンサー市場への扉を開くという意味でも、重要なプロジェクトと見なした。タケはマーケティングの商品になるためではなく、サッカー界のスターになるためスペインにやって来たが、世界で最も多くのタイトルを獲得しているクラブとの契約により、メディアの注目度は急増した。
とはいえ、その若さとEU圏外枠の問題により、スペイン初年度の2019-20シーズンはマジョルカで成長を続けなければならなかった。
その後、プリメーラ6チームからオファーを受け、オサスナとの契約があと一歩というところで、ビジャレアルの新監督に就任したウナイ・エメリ(現アストン・ビラ監督)に説得された。エメリの衝動的な性格と信念を貫き通す力に誘惑され、欧州のコンペティションで確固たる地位を築いているクラブで、プロとしての冒険を始めることになった。その際、エメリからプレーしてほしいポジション、すなわち、右サイドやトップ下で起用するとの説明を受けていた。
タケは日本のメディアから大注目を受けるビッグスターのオーラを纏い、レアル・マドリードが保有権を持つ選手として、人口わずか5万人の小さな町ビジャレアルにやってきた。エメリはタケのマジョルカ時代のビセンテ・モレーノ監督(現在無所属)と同じく、記者会見のたびに「久保のプレーをどう思うか?」「なぜもっと出場時間を与えないのか?」と質問されることに苛立っていた。
代表選手が多数所属するビジャレアルでのポジション争いが熾烈を極めていたなかで、このようなメディアの包囲網は、まだ19歳で成長期にある青年にとって有益なものではなかった。加えて、エメリは選手たちに守備で尽力することを要求したが、タケはそれにうまく対応できなかった。
その才能に疑問の余地はなかったが、当時の彼は望むような自分の姿になること、メディアに強く求められるような主役を演じるには、まだ十分ではなかったのだ。スタメンに名を連ねられず、出場時間がほとんどなく、彼のスター性は徐々に失われていった。
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プロフィール
高橋智行 (たかはし・ともゆき)
茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、リーガ・エスパニョーラを中心としたメディアの仕事に携わっている。