南米予選で見えた、出場枠増による「W杯の変質」 強豪国から緊張感が消え、弱小国のラフプレーが増えた (2ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

【予選が退屈でつまらないものに】

 アルゼンチンやブラジルがW杯に出場できない可能性は、魚がワンと吠える可能性と同じくらい低くなるだろう。強豪チームは予選を全力で戦う必要がなくなる。もちろん選手が手抜きをすることはないだろう。しかし、意識のどこかに「簡単にW杯に行ける」という気持ちがあれば、それがプレーに影響を与えないとは言いきれない。

今月、W杯南米予選でコロンビア、アルゼンチンと対戦するブラジル代表(写真は10月のウルグアイ戦) photo by Reuters/AFLO今月、W杯南米予選でコロンビア、アルゼンチンと対戦するブラジル代表(写真は10月のウルグアイ戦) photo by Reuters/AFLOこの記事に関連する写真を見る ここまでの4試合で、ブラジルの成績は2勝1敗1引き分け。内容がよかったのは引き分けたベネズエラ戦だけだ。もちろん今のセレソンの状態が悪いことも関係がある。監督は暫定だし、絶対的なスターもいない。だが、それを差し引いても試合の空気はどこか違っていた。「たとえ10試合負けたってW杯には行けるさ」。そんな気持ちがどこかにあったのではないか。ブラジル人は特にメンタルの持ちようがプレーに大きく響く。

 今はまだ予選が始まったばかりだが、試合が進むごとに枠が増えたことの影響は大きくなっていくだろう。たとえばアルゼンチンはすでに4勝をしている。南米予選は全部で18試合ある。論理的に言えば8試合に勝てば、もう本大会出場は固い。そうなればわざわざヨーロッパでプレーするスター選手たちを呼び寄せることもしなくなるだろうし、選手たちも無理してまで勝とうとはしなくなる。すでに出場権を獲得した同士の、実質的な消化試合も増えてくる。予選はただの練習の場と化し、退屈でつまらないものになるだろう。

 もうひとつ懸念されるのが弱小チームのプレーのあり方だ。ボリビアはこれまでW杯に3回(1930年、1950年、1994年)出場しているが、最初の2回は数合わせのために開催国(ウルグアイとブラジル)に近いボリビアに声がかかっただけだ。普通に予選を突破したのは1994年のたった1度しかない。つまり彼らは基本的にW杯をプレーするレベルにない。しかしそんなボリビアにも今回は十分に可能性がある。

 これまでW杯をほぼ諦めてきたチームは、がむしゃらに勝ちにくるだろう。実力がないチームが勝つ方法、それはラフプレーで相手を止めることだ。ボリビアはここまでの4試合でイエローカード12枚、レッドカード1枚と予選で一番ファウルが多い。なぜかファウルは取られなかったが、ボリビア対パラグアイ戦では、相手MFの足首を明らかに狙ったプレーが問題になっている。

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